Soup Stock Tokyo

柳家花緑

Soup Friends Vol.62
柳家花緑 さん

2016年最初のスープフレンズは、1月30日(土)開催の「おいしい教室~落語と食のじかん~」へもご登場いただく落語家・柳家花緑さん。落語家初の人間国宝5代目・柳家小さんを祖父に持ち、ご自身も古典落語のみならず現代を題材にした新作落語に取り組むなど、落語の新たな可能性を追求し続ける花緑さん。落語を通じて見えてくる江戸当時の庶民の暮らしと食にまつわる風景についてもお話を伺いました。

「一番」という観念を持たない

──Soup Stock Tokyoをご利用いただいたことはありますか?

はい。好きなスープはオマール海老のビスク、生姜の和風スープやカレー。冷凍スープをよく買っていて自宅の冷凍庫には常に入っています。店にも外出先で何回か足を運んでいますよ。

──スープや汁物はお好きですか?

好きです。トマトベースで野菜がたっぷり入ったものとか。味噌汁もよく飲みますね。おでんがすごく好きで、妻が家の近所の練り物屋さんで買ってきた練り物でつくるおでんも絶品です。

──食に対して日々心がけていることやこだわりなどがあれば教えてください。

く「一番好きなものはなんですか?」聞かれることも多いのですが、自分自身はできるだけ順位という概念を持たないようにしています。理由は「一番」を決めてしまうとそれ以外はすべて「二番以下」になってしまうから。「一番」にこだわるよりも、今食べたいものを食べられることに幸せを感じたいと思っています。食事は生活の中の彩りですから。仕事柄、日本各地の食に出会う機会にも恵まれていますので、自分にとって食は楽しみであり出会いですね。

師匠から教わった落語の「守破離」(しゅはり)

──落語の道を志されたきっかけを改めて教えてください。

そもそものきっかけは落語家の家庭に生まれたことです。現在落語家は全国に750人ほどいますが、二世でプロとして活躍している落語家は僅か22人。世襲制が主な歌舞伎とは同じ伝統芸能でも全く逆の世界です。私の場合は9歳で初高座に立ってから落語一筋。二世の中でも珍しいケースかもしれません。

──落語家として大切にしていることはありますか?

祖父の五代目柳家小さん師匠から教わった「守破離」(しゅはり)という言葉です。もとは武道用語ですが、落語家の在り方にも通じる考えです。「守」とは師匠の教えを忠実に守ること。落語家の修行は師匠の語りをまねることからスタートします。「学ぶ」という言葉は「まねる」ことに由来しているとも言われていて、まずは自分の頭の中を空っぽにして師匠の教えを注いで満たしていく。自分の意見は要りません。「破」は二つ目に昇進して一人前としてみなされ、高座に上がることができます。「離」の段階でついに真打ちとなり師匠と呼ばれ、ようやくここで自分なりの表現ができるのですが、この「離」が難しい。今でも原点の「守」に立ち返りながら、自分の理想の「離」へ到達することが落語家としての目標です。

「おいしそうに感じられる」落語の仕草

──落語には食べ物が登場する噺が多くありますね。

師匠の小さんの十八番の一つに「時そば」という噺(はなし)があります。江戸時代、屋台で食べられていた二八そばはかけそばのようにシンプルで、器も今より浅く、軽く小腹を満たすようなものでした。師匠がそばを食べる仕草は「とろろそば」を食べているような特徴的な音で。けれどお客さまにとってはおいしそうな音に聴こえるんです。落語の中に食にまつわる仕草は多々ありますが、リアルな「おいしさ」を伝えることが正解なのではないかと思っています。

──江戸時代の食文化はどのようなものだったのでしょうか。

昔は保存が中々出来なかったので、街中を売り歩く八百屋に魚屋、豆屋からその日の食材を調達するというスタイルでした。当時は町中に明かりも少なかったので、働く人は日の出とともに家を出て、日が暮れる前に仕事は終わり。肉体労働が主な職人さんは胃袋を重くしないため、蕎麦や寿司のように手早く軽くおなかを満たせる屋台の食事を好んだようです。現代のファストフードのはしりでしょうか。

江戸の美学は「いき」と「野暮」

──江戸時代と現代、共通する部分はありますか?

江戸っ子の価値観を表す代表的な言葉は「いき」と「野暮」です。「いき」とは腹八分で洗練された状態のことで当時の美学でした。現代はインターネットを使えばどんな情報でも入手できますが、知らなくてもいいことまで知ってしまう。これは江戸の美意識からすると野暮な行為なのかもしれません。きっと人間は基本的に野暮な生き物だと思うのです。野暮を知っているからこそ、「いき」なものに憧れる気持ちは今も昔も変わらないのかもしれません。

──最後に、花緑さんにとっての原動力とは何だと思われますか?

感謝」です。大人になることは、周囲の感謝を知ることだと思っています。普段何気なく見過ごしてしまいそうなことも感謝の気持ちを持って取り組めば、仕事も作業ではなくなるし物や人への接し方も変わります。「人生は感謝を見つける旅」。そう考えています。

柳家花緑(やなぎや かろく)

1971年東京生まれ。落語家。9歳の頃より落語を始め1987年3月、中学卒業後、祖父である五代目柳家小さんに入門。1994年、戦後最年少の22歳で真打昇進。古典落語はもとより、劇作家などによる新作落語にも意欲的に取り組んでいる。着物と座布団という古典落語の伝統を守りつつも、近年では47都道府県落語などを洋服と椅子という現代スタイルで口演する同時代落語にも挑戦し、落語の新しい未来を切り拓く旗手として注目の存在である。他ジャンルからのオファーも多く、番組の司会やナビゲーター・俳優としても活躍中。著書「柳家花緑と落語を観よう」(岩崎書店)や花緑初主演の舞台「南の島に雪が降る」のDVDも好評発売中。

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