Soup Stock Tokyo

コウ静子

Soup Friends Vol.63
コウ静子 さん

韓国料理をベースに、アジア、和、洋、スイーツなど幅広いジャンルで、素材の持ち味を活かし人の心と身体を健やかに保つ料理を提案する料理家・コウ静子さん。その背景には韓国料理研究家・李映林さんを母に持ち、弟のコウケンテツさんも料理家として活躍するなど、強い愛情と絆で結ばれた家族の存在と、共に囲む食卓の風景がありました。ご自身の原動力は「愛」と語るコウ静子さんに、食を通じて伝えたい思いと韓国の豊かなスープ文化についてもお話を伺いました。

韓国のスープは「飲む」ではなく「食べる」もの

──スープにまつわる印象的な思い出があればぜひ教えてください。

振り返ってみると人生の中でいつでもかたわらには食が寄り添っています。悲しい出来事があったけれど、そのときに家族の料理を食べて癒されたとか、デートのときにドキドキしながら食べた料理の味とか。キラキラした思い出の中に音楽があるのと同じように、食やスープにまつわる思い出はたくさんあります。私のレシピが、いつまでも思い出の中にあり、人の人生に寄り添えたら素敵だなと思っています。
韓国では産後の肥立ちを良くするため、産後2~3週間毎日わかめスープを食べる習慣があります。そのことから、誕生日には生まれてくれたことに感謝してわかめスープを用意するんです。子どもの頃にはケーキと一緒に具沢山のわかめスープを食べた思い出が印象深いです。今では、両親の誕生日は感謝の気持ちを込めてわかめスープを作ります。

──韓国ではスープはどのような位置づけなのでしょうか?

韓国では疲れている時には参鶏湯、産後にはわかめスープを食べるなど身体をいたわるスープが多くあります。スープを食べて毎日の健康を整えるという考えがあるからです。それに韓国語ではスープを「飲む」と言わず「食べる」と表現します。食卓でも箸よりもスプーンを身体の近いところに置きます。それは韓国ではスープをとても大切にしていることと、匙の文化を持っていることの表れなのです。まずはひと匙、口に入れてから食事を始めるくらい身近な存在です。スープは全ての食材が混じり合いその時にしか出せない味が凝縮しています。その調和の中に料理を作る人の思いが詰まっていると感じます。

──日々の食卓で心がけていることがあれば教えてください。

蒸し野菜や茹で野菜など味を付けないお野菜を必ず一皿用意します。それぞれの料理にしっかりと味が付いていると、一口目は美味しく感じるかもしれませんが、塩分量が多くなったり、食べ疲れをしてしまうことがあります。箸休め、味覚のリセットとして食卓に並べることが多いです。韓国には薬食同源(やくしょくどうげん)という言葉があり、一年を通して四季の変化と身体とのバランスを考え身体の不調が出ないよう、季節や旬の食材を選ぶようにしています。

母から学んだ「見方を変える」柔軟な心

──食を通してご自身を表現する上でのインスピレーションの源は何ですか?

子どもの頃、母はお茶を飲む時間を大事にしていました。好きなカップと茶葉を選び、丁寧に淹れる。その時「カップの取っ手一つにしても見る角度で表情が変わる。同じように気づかないことも少し視点を変えるといろいろなことが見えてくる。」と言われたことが心に残っています。それは日常の生活の中で、小さな変化を“感じる心”を育ててくれました。季節の素材を美味しいと感じたり、庭のハーブが花をつけたのを見つけたり。そんな小さな発見が、日常生活で完成を育み、生活のスパイスになるのです。同じ日は一日もなくて、毎日変化している。そして自分自身も変化している事に気付かされます。母から教わった「見方を変える」という柔軟な心を持つことで、いやだなと思ったことも、それが見方をかえることで、とても大切でかけがえのない出来事になったりするのです。嫌なことがあっても自分の人生の中で素敵なきっかけに転換できるし、料理家となった今でも自由な発想で食材に向き合えるのだと思います。

──ご家族で囲んだ食卓の思い出を教えてください

私達兄弟4人はそれぞれに、「いつも自分の食べたいものが食卓にあった」と感じていたんです。好みもバラバラなのにみながそう感じていたのは、母が私達の様子をしっかりと見ていて、心と体の状態に合わせて的確に料理をつくっていてくれたから。元気な時は何でも美味しい。母は、私達の食べ方を見ているとちょっと調子が良くないとか、なんとなく食欲がないなと、手に取るようにわかると言います。食べる人のことをよく考えて、その人に必要なものは何かを感じて、思いをのせて料理を作る。言葉はなくても、料理を通じて思いを通わせることができる。そうした時間の積み重ねが、母に愛されているという自信や安心となるのです。

伝えたい「人を思いやり、心を込めた料理」

──お母さまから受け継ぎ、次の世代へも伝えていきたい「母の味」は何ですか?

母から受けた愛情の中にたくさんの料理の思い出があります。一つには絞り切れませんが、どの料理にも共通しているのは「人を思いやって心を込めた料理」だということ。母からは自分の内面を見つめて料理をすることも学びました。自分の今の心と体の状態を感じて、必要なものを選び、料理をする。「今日何を食べようかな」と考えを巡らすだけでもいいのです。自分自身をいたわる気持ちが、まわりにいる人を大切にすることに繋がっていく。料理家として大切に伝えていきたいですね。

──いま一番興味があることや、今後取り組みたいことがあれば教えてください。

たくさんあります!今とりわけ興味があるのは子どもの頃から続けていた「書」です。伯父が書家で、済州島にアトリエがあり、そのアトリエで墨をすって過ごしました。済州島(チェジュとう)に住む叔父が書家なのですが、彼の作品を見てそのパワーに圧倒されたことがあります。思いを表現して相手に伝えることは書も食にも共通すると思っています。そのほか関心があるのは食と宿泊、オーベルジュです。叔父や母に縁のある済州島で。食材が新鮮で素材を活かしたシンプルな料理が美味しい土地です。海と山に囲まれた豊かな環境でいつか実現したいなと思います。

──ご自身の「原動力」を一言で表すとしたら何だと思われますか?

「愛」です。幼い頃から家族からの愛情をたくさん受けて育ちましたし、愛情によって感性が研ぎ澄まされてきました。愛情の中から生まれる思いを自分の料理に表現していけたらと考えています。

コウ静子(こう しずこ)

料理家。料理家である母李映林の韓国薬膳を取り入れた日々の食卓や、2人のいとこが韓医学博士で韓医師と婦人科医という環境から、薬膳や韓医学を身近に感じて育つ。自身も国際中医薬膳師である。TV、ラジオ、雑誌など多数のメディアで料理を提案しながら、自分自身と向き合い、日々の食卓を大切にすること。それは心と体 を美しく豊かにしてくれるということを、料理を通じて伝えている。講演、飲食店プロデュースや雑貨の提案も行っている。弟のコウケンテツも同じく料理家として活躍中。著書に「野菜たっぷりの薬膳韓国ごはん」(大和書房)「症状別 体の不調を整えるごはん」(家の光協会)など多数。

桜海老と春キャベツのクリームスープ

おだし東京 Soup Stock Tokyo