Soup Stock Tokyo

三國万里子

Illustration Mikuni Mariko

Soup Friends Vol.70
三國万里子 さん

今号でご紹介した冬のおすすめスープにさらにぬくもりを添えてくれたのが、ニットデザイナー・三國万里子さんの作品たちです。三國さんが作り上げる作品は、伝統的な模様や手法をふまえながらも、独自の解釈とユーモアが加えられ、編み物に触れる機会がない人にとっても、見るだけでじんわりと温かい気持ちになります。そんな三國さんに冬の過ごし方と新しく発表された作品集について伺いました。1本の毛糸は、誰かを温めるためにどんな形にも変わることが出来るのです。

糸が「言葉」や「思い」を吸っていく

──三國さんにとってスープはどんな存在ですか。決まって食べているスープや思い出に残っている汁物があったら教えてください。

スープと呼んでいいのか分かりませんが、朝起きたら必ず白湯を飲んでいます。寒いなぁと思う時って、私は内臓が冷えている感じがするんですね。だから、朝起きたらお湯を沸かしてアツアツのものすすりながら飲むようにしているのですが、そうすると子供のお弁当作りも心地よく始められます。自分を可愛がるというか「よしよし、今日も私よろしく」という気持ちになるんですよね。あとは、ほぼ毎朝味噌汁を作っています。

──今まさに編み物のシーズンを迎えていますが、ニットデザイナーである三國さんが一番お忙しいのは、冬の準備をする夏だと思います。三國さんにとっての“冬”はそんな忙しい時期を終えてホッとできる季節なのでしょうか。

そうですね。忙しい夏を終えて、来年のことを夢見ているのが私の冬です。来年のプロジェクトの卵をおなかのあたりにいっぱい抱えて……。その時が一番幸せなんです。

──編み物をしている時間は三國さんにとってどんな時間なのでしょうか。編むことが仕事でいらっしゃるので、いろいろな計算や考え事をしていると思いますが、編み物って、誰かと一緒に編めないのが面白いところでもありますよね。

そう、ひとり時間を作るツールでもありますね。あと、これは編み物の特性なのかもしれませんが、言葉とか考えを糸が吸うんです。メディテーション(瞑想)に近い効果があるような気もします。だから、編み過ぎると言葉に飢えてきたりもしますし、悲しい時に編むと気分がスッキリします。それと同時に、私は編み物はスポーツのようなものでもあると思っています。お腹にぐっと力を入れて姿勢をきちんと保っていないと長時間編めないですし、編み物を続けていくと、身体が編み物の身体になっていく感じがするんです、

誰かのために編むということ

──三國さんの新刊『うれしいセーター』は、たくさんの著名人が登場しその方の要望を聞きながら三國さんがセーターを編んでいくという、かなり変わった編み物本です。なぜこういった本を作ろうと思ったのですか。

普通の編み物本だと、手芸好きな人にしか見てもらえないんですよね。でも私は昔から越境したい欲がすごくあって、編み物を“作る”という自己満足に留まらず“着る”ということに繋げて、その楽しみも伝えていけたら、誰にでも興味の持てるジャンルになるんじゃないかと思っていたんです。いろんな人にセーターに関わって欲しい。編み物がみんなにとっての遊びになって欲しい。そういう思いで作りました。

──今回はまず、登場される方にお手紙を書いてセーターにまつわるお話やリクエストなどを聞いたそうですが、その中で一番の難題は何でしたか。

谷川俊太郎さんのセーターです。谷川さんは「セーターはカシミアで無地のものしか着ない」ということでした。実はそれが一番得意なのは手編みではなく機械なんですよね。だから、手編みで編むことの意味と折り合いを自分の中でどう付けるか、というところで悩みました。でも、谷川さんのセーターは完成したあとにいろいろな方に「昔から着ているみたいだね」というようなことを言ってもらえて、それがすごくうれしかったです。編んでいると、編む人のエゴってどうしても出てきてしまうのですが、誰かのために編むというのはこういうことなんだと改めて感じました。谷川さんと真逆の人がラーメンズの片桐仁さんでした。彼は“無地恐怖症”だそうで、カラフルでかなり派手なセーターを編みました。

──3歳から編み物を始められて40年以上編み続けているわけですが、その原動力は何だとご自身では思っていますか。

私は昔から人付き合いが得意な方ではないのですが、表現することは全般的に好きなんです。編み物はもちろんのこと、ピアノを弾くのも好きですし、文章を書くことも好きです。不器用なやり方なんですが、簡単には人と馴染めない代わりに自分が作ったものを差し出している。そんな感覚がいつもあります。だから、誰かと繋がるためにやっているのかもしれませんね。そういう意味で、編み物はメディアだと私は思っています。誰かのために編んで、それを喜んでくれる人がいること。編みたいと思える人がいること。ちょっと大袈裟かもしれませんが、それが私にとっての喜びですし、生きることそのものになっています。

三國万里子(みくにまりこ)

三國万里子作品集『うれしいセーター』 - ほぼ日刊イトイ新聞

三國万里子 Mikuni Mariko/ニットデザイナー。1971年新潟県生まれ。3歳の時、祖母から教わったのが編みものとの出会い。早稲田大学第一文学部仏文科に通う頃には洋書を紐解き、ニットに関する技術とデザインの研究を深め、創作に没頭。大学卒業後、いくつかの職業を経た後に、ニットデザイナーを本職とする。糸井重里が主催するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」では、オリジナルキットやプロダクトを販売するウェブショップ「Miknits」を持ち、編み物の面白さと楽しみ方を広く伝える活動を展開している。2年ぶりの作品集として発表した『うれしいセーター』(全15作品収録 発行:株式会社ほぼ日 価格:2,500+税) は宮沢りえ、星野源、桐島かれん、谷川俊太郎、平松洋子、二階堂和美など12人にリクエストを聞いて編み上げたセーターを12人のポートレートと共に収録。もちろん、すべて編み図つき。

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