2018/7/15(Sun)@東京・中目黒

おいしい教室 特別編 カレーのじかん

「かんかん照り」という言葉がふさわしいほど、夏らしい日々が続く今年。
夏といえば、なんだか無性に惹かれてしまう「カレー」のその魅力に迫ります。
2018年も、スープ専門店によるこだわりのカレーを知ってもらうために、6月20日にカレーのみを販売する「Curry Stock Tokyo」を開催し、6週連続で個性豊かなカレーが店頭に並びました。

今回のおいしい教室は、Curry Stock Tokyo特別編。カレーの出張料理人に始まり、いまやカレーに関する著書は50冊以上を超える水野仁輔さんをゲストにお迎えしました。
今回のテーマは「おいしいカレーって、なんだろう?」。
国内外の様々なカレーを味わうだけでなく、自らも作ることで、「おいしいカレー」を探求し続ける水野さんに、お話をたっぷり伺いました。

■ 第一部:トークセッション|理論編:おいしいカレーの因数分解

第一部では水野さんと、Soup Stock Tokyoの開発担当である桑折がトークセッション。

毎年、行われている、水野さんとスパイスカレー仲間との旅。今春は桑折もインドのチェティナードへ同行しました。「その際に水野さんに伺った話がとても興味深かったのでSoup Stock Tokyoにつながるお客さまにも聞いてほしい!」そんなアイディアがきっかけでこの企画がはじまりました。

水野さんが「おいしいカレー」を語るときに、外すことができない3つの要素があります。それが、「カルチャー」「サイエンス」「ノスタルジー」です。

水野さん
「例えばインドに行って、その気候風土のなかで、その土地でとれた素材を使って、綿々と受け継がれてきた文化や背景を想いながら食べるおいしさ。それは僕にとって、『カルチャー』としてのおいしさなんですよね。
現地では現地でのおいしさがある。
それを日本で作ってみるときには、ひとつひとつの工程を分析して試してみたい。“玉ねぎはどういう切り方をすると、どんな味になるのか“など、料理の技術的な洗練、『サイエンス』としてのおいしさの深堀りが、個人的には興味深いんです。」

セッションの中盤、水野さんが会場のみなさんへ「お母さんのカレーがこんなにおいしいのはなんでなんだろう、って思いませんか?(笑)」と問いかけると、会場からは笑い声とともに深くうなずく姿も。

水野さん
「僕が思うに、『ノスタルジー』は『カルチャー』に近いんです。本業がシェフのお母さんはほんの一握りのはずなのに、こんなにおいしくて心が掴まれるし、忘れられない味なのは、大切な記憶だったりが作用しているんだと思うんです。」

一口に「おいしいカレー」といっても、個人で好みが違うことはもちろん、どの切り口からなる「おいしい」なのかで方向性が大きく変わりそうです。

■ 第二部:デモンストレーション|水野式・最新カレーに学ぶ

「このまま、この話だけで夜になってしまうから、もう作り始めましょう。(笑)」ということで、早速水野さんの最新「おいしいカレー」のデモンストレーションが始まります。

ここですかさず桑折から、「『最近の水野さんは、カレーの玉ねぎを炒めないことにしたらしい』という噂がありますが、どうしてなんですか?」という質問が。

水野さん
「これまでは強火で炒めていく、焼くに近いようなやりかたを推奨していたんですが、ここへきて急にやめたんです。というのも、この方法でも糖度が変わらないということが実験してみて、ようやく分かったからです。塩を入れて、水を入れて、蓋をします。要は蒸し煮にしていくんです。そして、このままほうっておく。その間に他の仕込みができますし、しっかりおいしくなるのを発見してしまいました。」

玉葱を煮ている間に、今度はカレーづくりの構造の解説に入ります。

蒸し煮を進めていくと、先ほどの玉ねぎもしっかり飴色に仕上がりました。「まるで醤油をいれたかのようですね」という声が客席からあがるほど、香ばしい香りが会場いっぱいに広がります。このあと、鶏肉をスパイスに絡めて炒め、トマトを加えて煮込んでいきます。

今回は水野さんの新刊巻末にある「水野式・最新おいしいカレー」のレシピをお配りしながらデモンストレーションを展開していましたが、ここで水野さんから急遽、ご提案がありました。

水野さん
「どうでしょうか。みなさんに、少しご相談です。今、トマトを入れてみたんですが、今日の気分だと、このままでもかなりおいしそうなんです。(笑)このあと、隠し味としてココナッツミルク、醤油、マーマレードを加えていくはずだったんですがやめてみようかなと。すべてを入れたバージョンも作ってきたので、そちらと食べて比べてみましょう。」

まさに、この瞬間にも「おいしいカレー」が更新されました。 デモンストレーションを通して教えてくださったのは、調理プロセスとそのコツだけでなく、“「おいしいカレー」は日々、変わっていくということ“。まずは、その日の自分にとっての「おいしい」を自分に問いかけることにはじまり、その目的地によって調理プロセスもおのずと変わっていくということでした。

水野さん
「こうして皆さんの前でお話していますが、ふだんカレーを作っていると、これまで自分が提唱してきたルールが根底からひっくり変えるときがあります。次にレシピを出すとしたらその頃には全く違うレシピを書いているかもしれない。実際、今回出した新刊も、原稿を書いたあと、あとがきを書くタイミングで『もしかしたら、こうだったかもしれない…』なんて書いちゃいました。今この瞬間にも更新されましたね。」

■ 第三部:立食懇親会|おいしいは食べることから始まる

第三部はバナナの葉を敷き詰めたテーブルを中心に、参加者のみなさんと立食懇親会。 オリジナルの瓶のビールで乾杯をしたあとは、Soup Stock Tokyoの「豚トロのビンダルーカレー」「カシューナッツのホッダ」「ぶどう山椒の麻婆カレー」と水野さんによる「水野仁輔だけのおいしいカレー(完全版)」が並びました。

水野さんがデモンストレーションで作ってくださったカレーも出来上がり。隠し味であるココナッツミルク、醤油、マーマレードが入っていないバージョンの「水野仁輔だけのおいしいカレー(隠し味なし版)」も実食してみます。

水野さんの「みなさん、比べてみるとどうでしょう。どちらが気に入りましたか?」という質問には、隠し味なしのカレーがやや優勢となり会場がどよめきます。

「おいしいカレー」をお隣のかたと語り合う姿も。
参加してくださったかたのおひとりは、「今日はたくさんの発見がありました。でも、その発見から、また新たな疑問や仮説が生まれてしまうから、カレーの世界は限りがなくておもしろいです」と。

水野さんご自身もカレーに魅せられて以来、国内外のさまざまなカレーを食べてこられたはず。それでも、「おいしいカレー」への足掛かりは、ひょっとすると自分自身の内側にあるのかもしれません。そんな示唆に富んだ2時間半となりました。

旅先で出会った味から生まれるカレーや、幼い頃の懐かしい記憶をひもといたカレー。そして、自分たちらしい工夫を組み合わせて生み出されるカレーなど、Soup Stock Tokyoによる「おいしいカレー」の探求も、まだまだ続きます。

次回のおいしい教室も、どうぞお楽しみに。


ゲストプロフィール:水野仁輔さん

AIR SPICE 代表
1999年以来、カレー専門の出張料理人として全国各地で活動。「カレーの教科書」(NHK 出版)、「わたしだけのおいしいカレーを作るために」(PIE INTERNATIONAL)などカレーに関する著書は50冊以上。「カレーの学校」で講師を務めている。現在は、本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR SPICE」を運営中。
今回の立食懇親会でもご用意し、とても好評だった「水野仁輔だけのおいしいカレー」が載ったカレーのレシピ本「わたしだけのおいしいカレーを作るために」など書籍も絶賛販売中です。/p>

「わたしだけのおいしいカレーを作るために」
著:水野仁輔 出版:PIE INTERNATIONAL 定価:1500円+税


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