Soup Friends

Soup Friends Vol.47 / メタ バラッツ さん

さまざまな国で暮らしてきた経験と、日本とインドにそれぞれルーツを持つバラッツさん。国や国籍によって異なる食卓を体験してきたバラッツさんだからこそ、その国の文化の形を、料理のなかに見抜いていきます。スパイスそのものを仕入れて販売するだけでなく、スパイスを使った出張料理、鎌倉・極楽寺にある日本家屋にてさまざまなワークショップなども開催しています。日々の活動と、ご自身の味覚のルーツなどバラッツさんが辿ってきた道のりの、興味深いお話をうかがいました。

──バラッツさんの味覚のルーツはどこにありますか?

僕の故郷は、インドの西側グジャラートです。パキスタンの下、アラビア海に面している場所です。インドには多くのベジタリアンがいると言われているのですが、この僕の故郷には特に多くのベジタリアンがいます。そして砂糖の生産量が多い地域でもあります。スパイスはよく使うのですが、塩より砂糖を沢山使うので、どの料理も甘いのが特徴です。乳製品の産地でもあるので、ヨーグルトのクリーミーさと酸味、甘み、スパイスが混ざったような味がルーツにあります。チャパティ、ダールフライ(緑豆)、お米、という三種類の炭水化物と一緒に食事をします。「グジャラートターリー」という定食のようなスタイルで食事をするんですが、たくさんの小鉢にさまざまなスパイス料理が並び、煮込み料理とライスがバナナの葉の上にのってステンレスの皿で供されます。

──チャイはよく飲みますか?

毎日飲みます。僕よりもっともっと飲む人もいるくらい、インド人にチャイはかかせません。チャイは家庭によってレシピがすべて違います。それぞれの家の特徴が現れるものです。僕が「真夜中のサフランチャイ」と呼んでいる60年くらい歴史のあるチャイ屋さんがあるんです。そこの店主は60年前から店番をしている訳なんですが、その人の役割は、出来立てのチャイにサフランを入れること。サフランはとても貴重なので店主であるその人が管理しているんです。また、僕が寮生活を送った南インドのタミル・ナードゥ州にあった喫茶店では、11カ国語を喋ることのできる強者店主がバターを管理しています(笑)。トーストを頼むとバターを塗るかと聞かれるんです。塗ると答えると、レジの横で大切に保管しているバターを塗ってくれるんです。そんな風にとても大切な食材は、きちんと役割をつくって管理するんですよ。食に対するこだわりとも言うし、切実な生活のための糧でもあるんでしょう。

──バラッツさんにとってスパイスとは何でしょうか?

僕が日常的に一番よく使うスパイスはコリアンダーとクミンです。スパイスというのはもともと語源が「spicies(種)」で、ヨーロッパの人が名付けた「南の国から来た魅惑的でエキゾチックな(種)ものたち」をそう呼んでいたのです。タバコ、コーヒー、紅茶、塩、そしてスパイスがありました。当時からその役割は変わってないと思っています。スパイスには夢があるんです。映画で例えるならば名脇役だと思っています。主役、すなわち食材を引き立ててくれる存在という意味で共通点があるんです。時として主役は食材だけでなく、地域、人、ニーズなどに応じる形でスパイスが寄り添い七変化する。スパイスとの掛け合わせでそれらが生き生きとしていくのです。

──子どもの頃からスパイスは好きだったのですか?

好きとか嫌いはあまり考えたことなかったのですが、日本で過ごした小学生時代は、スパイスまみれはちょっとやだな~と思っていましたね(笑)。給食にカレーが出てくるとからかわれるしね(笑)。その後、南インドの山の中の要塞のような厳しい環境で寮生活を送りました。100人部屋の大部屋での生活は、それはそれは大変でした。さらに150カ国以上の人々が集まるスイスの高校に入り、今度は世界中の人々の価値観と世界観を肌で実感する生活を送りました。まさに新世界でしたね。こういう人たちが後々世界を作って行くんだと思いました。その後はスペインのアンダルシアで大学に通い経営を学びました。一年中晴れている特徴的な気候に惹かれて訪れた土地でした。そんな日々を送る中で次第にスパイスに向き合う気持ちが変わってきましたね。ルーツでもあるその存在に向き合うことを決めたのが、ふたたび日本に戻ってきた22歳の時でした。

──スパイスがもたらす可能性をどうお考えですか?

もともと僕はイルカに出会えるような海の仕事に就きたかったんです。船に乗って海に出るような。けれど、巡り巡って現在はスパイスを扱う仕事をしています。しかし、スパイスを切り口にすればこの先は誰にでも会えるし、何でもできるんじゃないかなと思っています。昨日も被災地支援の一環で、宮城県の女川町に行ってきました。今年のテーマは「×(かける)スパイスの可能性」なんです。実現したいことがあれば、スパイスを掛け合わせることで実現できると思っています。また、アーユルヴェーダ(インドの伝統医学)の考え方ではスパイスのさまざまな多様性ある効果効能を持っています。もともとこの概念はスパイスだけでなく季節ごとに旬のものを食べる習慣や、病気を予防していく際にも活用されます。日本では、料理をする時に「いかに肉に近づけるか」という視点で料理をする傾向がありますが、インドでは野菜や豆をいかにそのまま、バリエーション豊かに食べるかということを模索します。そのために種類がたくさんあるスパイスが重要になってくるのです。現在インド人も多く暮らすシンガポールの病院では、東洋、西洋、中医学のほかにアーユルヴェーダが4つの選択肢として治療が受けられると言います。現代人にとって多くの必要な要素が、アーユルヴェーダにも多く含まれているんだと言えますね。スパイスがおいしい料理の立役者で在り続けることに未来があると思っています。

メタ バラッツ

1984 年、鎌倉生まれ。 南インド・ニルギリの高校GSIS(Good Shephered Int’l School)を卒業し、スイス・ジュネーブのCollege du Leman にてケンブリッジ大学のA Level を獲得。その後、スペインに留学して経営学と料理を学び、帰国。アナン株式会社にて新商品開発やネーミング・新規事業の改革等に携わりながら、北インド・グジャラート出身である父アナン・メタの元で、アーユルヴェーダを基にした料理を実践している。旬の野菜をテーマにしたカフェ「移動チャイ屋」を立ち上げ、出張料理を精力的に展開中。また、2011年震災後より宮城県女川町に仲間たちと炊き出しに赴いたのをきっかけに現地の雇用、観光資源創出に向け「女川カレーProject」を仲間と共に始める。

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