Soup Friends
Soup Friends Vol.31 / 辻 義一さん
──懐石には3つの柱があると伺いました。その柱を教えてください。
3つめの柱は「料理を美味しく食べてもらうための心配り」です。たとえば、お料理を作る相手が高齢であれば、堅いものは食べにくいでしょうから食べやすいようにやわらかい食材を選んだり、隠し包丁を入れるなど調理法を工夫してやわらかく仕上げるなどの心配りはとても大切です。料理をする前に相手を知ること。そして、思いやることで、どんな相手にも美味しく食べてもらうことができる。料理は技術だけではなく、食べ手を思いやる気持ちがあってこそ、真においしくつくることができるのです。
──よく訊ねられることだと思いますが、料理が上手になるにはどうしたら良いでしょうか。
年齢に関係なく、気がついたその日から、食べ物を大切にし、手をかけるべきものには手をかけ、素朴な味わいのものには、あまり手をかけないほうがよく、素材そのものの活かし方を考えながら、素材が語る声が聞けるようになれば一人前です。また、料理を作るときには腹を満たしておいてはいけません。味覚が鈍重になり、動きもにぶく、デリケートな味がわからなくなってしまいます。手間ひまかけることを惜しまず、少しでもよいことをしようと積み重ねて行くことによって、おいしい料理が出来上がります。
──心がこもった料理について教えてください。
──偉大な人であり、気難しいところもあったと伝え聞く魯山人先生ですが、一番の思い出を教えてください。
まるで、禅問答のように料理を介して会話を繰り返していた記憶がございます。何とか勤まりましたのは、「茶懐石の素材の持ち味を生かす」私の料理がこの姿勢に徹したことが、魯山人先生の料理哲学と合っていたからなのかもしれません。自然を愛され、自然をお手本とされた先生ご自身も自然体でした。現在は先生の器に料理を盛らせていただくと、料理が絵になり、そこに一体感が生まれます。そして、お世話になった日々を思い出します。