Soup Friends

Soup Friends Vol.9 / 横川正紀さん

誕生当時から「Soup Stock Tokyo」のファンだという横川正紀さんは、厚いファン層に支持されるN.Y.発の食のセレクトショップ「DEAN & DELUCA」の代表取締役を務める注目の人物。「Soup Stock Tokyo」との出会いや、スープや食にまつわる様々な想いを語っていただきました。

──昨年末から「Soup Stock Tokyo」のスープを「DEAN & DELUCA」のカフェメニューとして導入いただいてますが、そもそものきっかけについてお聞かせいただけますか?

DEAN & DELUCA(以下、D&D)のカフェは、“スペシャリティコーヒーストア”ではなく、「食の美しさ」をより日常的に利用していただく場、つまりD&Dのサテライトだと考えています。 美味しいコーヒーはもちろんですが、コーヒーだけを軸にするのではなくて、時間毎の美味しいものがあるひとときを作っていきたい。サンドイッチという主力商品はあるけれど、当然スープは欠かせない商品だと考えて、当初からずいぶん長い時間をかけてオリジナルの商品開発に力を注ぎましたがなかなか難しかったんです。スープはある意味、「飲み物と食べ物の間」にあって、お客さんによって認識が違うので「食べるスープ」というジャンルの伝え方そのものが難しいことを現場で実感したわけです。そうこうして3年近く経った時、改めてセレクトショップとしてのD&Dのベースを考えると、自分たちの開発だけにこだわるのではなく、自分たちより美味しいものを作っている人たちがいるのであれば、まずその人たちの商品を提供したい、と改めて感じたわけなのです。Soup Stock Tokyo(以下、SST)のスープはそもそも自分たちが好きでしたし、食べるスープの専門店としてその商品力も含めてどこよりも美味しいと自信を持って人におすすめできるブランドでしたし、ぜひご一緒させていただきたいなと。ベタな言い方かもしれませんが、餅屋は餅屋。ずっと真面目にスープを作ってきた人たちの商品には、やはり叶わない。実際に導入後、スープの売り上げも3倍に伸びました。「レストランで作るスープのように」という真面目な想いが、その味を通してお客さんにもしっかり伝わっているのだなと、つくづく実感しました。

──スープ(汁もの)への思い入れがあれば教えてください。

汁ものと言えばパッと思い浮かぶものはやはり味噌汁ですね。食べ物一家に育ったので、まず食卓で食べ物を食べないことや残すことは許されない。「米を食うより味噌を飲め」という我が家ならではの鉄則があって、味噌汁には具から溶け出すエキスや栄養がたくさん詰まっているから、朝ご飯は何はなくともこれを1杯必ず飲むというのが習慣でした。親父はちゃんとご飯に焼き魚、ときちんとした朝食をとってましたが、かたや僕ら兄弟はとにかくギリギリまで寝て、朝食を食べる時間がない。それでも出かける前に味噌汁だけは必ず飲んでいましたね。でもここ最近、自分自身で健康を気にかけるようになって、我が家の習慣がどれだけ自分の体のバランスを支えてくれていたのかを改めて実感しましたし、そういう意味で以前よりもスープや汁ものを飲む機会が多くなった気がします。

──ご自身で料理をされますか?また食に対するこだわりについて教えてください。

去年からD&Dで料理教室がスタートしたということもあり、料理は以前よりするようになりましたね。西麻布で「HOUSE」というネオビストロ料理店をやっていることもあって、一時期は特にこの店が提案するストウブ(フランスの鉄鍋)を使った料理にいろいろ挑戦しました。自分のまわりにフレンチやイタリアンの料理人がたくさん居るので、彼らにいろいろ教わりながら新しいレシピに挑戦してみたり、いろいろです。こだわりと言っては何ですが、料理は頭で食べるものではなくて、目と鼻と耳と、あらゆる五感を使って楽しむものですから、余計な説明が必要なものよりもダイナミックにドーンと感性に伝わってくるような料理、言い換えればごちゃごちゃ着飾った料理より、食材にまっすぐ向き合ったようなシンプルな料理こそが本物だと感じますし、自分自身も好きですね。スープもそういう意味では飾りようも無いし、口に含んだ瞬間にすべてが伝わってくる。余計な説明が要らない、ものすごく素直で真っすぐな料理だと思います。

──ご自身で作ってみたいスープ、またSSTで食べてみたいスープは何でしょうか?

SSTのメニューでお話すると、個人的に好きなスープはボルシチや酸辣湯。今まで一番多く食べたことがあるのはボルシチだけど、自分で作ってみたいなと思うのは酸辣湯かな?SSTでぜひ作ってもらいたいスープはポトフです。スープに野菜の旨みがものすごく出るし、野菜それぞれもしっかり主役感があってそれぞれの食感や風味も楽しめるし、全体的にあっさりとした仕上げになることとか、あらゆる点から見てもバランスのとれたスープですよね。最近特に、僕の仲間内でもポトフが人気なんです。

──現在SSTでは冷凍スープを含め内食の開発に力を注いでいるのですが、同様に内食の分野に力を入れているD&Dを展開されるご当人として、「内食=家での食事」をどのようにお考えですか?

初めて勤めたとき家具屋を選んだのもその理由のひとつですが、僕自身が家族で過ごす時間も好きだし、家に友人を招いたりすることも好きだし、元々「家で過ごすこと」の重要度が高いんですね。建築を学び、家具屋を始め、食に携わることになり、気がつけば今自分自身が関わっていることすべてが、理想とする家族のあり方や生活のあり方を実現するための目的に繋がっている。高校の時の留学先だったオーストラリアのホストファミリーにも教わったことも多いと思うのですが、家族や友人と集まって一番会話が弾むのは、やはり食卓を囲む時。要するに、食べる時間が充実すると、自然とそこ(家)に人は集まってくる。そう思うと、家の真ん中にあるべきはキッチンなんだろうなと。作る人が作っている時間も重要だし、料理を待っている人たちと一緒に会話を楽しんだり、その時間こそ家族の時間であるべきだと思うわけなんです。夫婦の間でもそうだし、親子の間でもそうだし、こんなに素敵なコミュニケーションの場のあり方は無いんじゃないかと。話が少し逸れてしまったかもしれませんが、D&Dのお惣菜の売り上げや料理教室の反響を見ていると、家で過ごす時間を大切にしている人は益々増えているように感じます。内食のニーズの高さを、現場のメンバー共々ものすごくリアルに感じています。

──「Soup Stock Tokyo」に対してどんな印象をお持ちですか?

食に対してものすごく真っすぐで、想像力が詰まった感じ。懐かしいような新しいような、不思議な感じです。遠山さんに出会った時、お店が放っている雰囲気が彼の人格そのものに繋がっていることを実感しました。ちなみに、余談になっちゃいますが、SSTさんとのそもそもの出会いは遠山さんに出会う以前、ヴィーナスフォート1号店のオープンの日なんです。当時僕はインテリアの会社に勤めていて、自分たちもいずれはこういうところに出店できるようになりたいという考えもあったので、オープニングレセプションでいろいろな店を見て歩いてたんですね。その時初めて2階のSSTさんの店舗を見つけて。あのバケツのランプが天井を埋め尽くしている店内に足を踏み入れた瞬間、何だかとても不思議な無国籍感を感じて…。とにかく、「食べる時間の新しい楽しみ方を真摯に発信していこう」というパワーやクリエイティビティをものすごく感じたことを今でもよく覚えています。僕の中ではその当時から、SSTさんに対するある種のあこがれのようなものはずっと変わらず持ち続けている。だから未だに街角でふとお店に遭遇すると、その当時のことを思い出して、思わずお店の中に入ってしまうんですね(笑)

──未来の「Soup Stock Tokyo」に求めることは何でしょうか?

建築とか都市計画とか難しい話ではなく、街を魅力的にしていくのはひとつひとつの店の力だと思うんです。だから、自分たちの店が一軒できることで、この店がある街に住んでみたいと思ってもらえるような店でありたいと、僕ら自身がよくそう思っていて。たとえば僕がふと通りかかった駅や街でSSTさんのお店に出逢うと、「ああ今日はここに来て良かったな」と感じるように。SSTさんには、常に、そういう存在でありつづけて欲しいなと思います。

横川正紀/よこかわまさき

株式会社ディーンアンドデルーカジャパン 代表取締役。2000年に設立したインテリアショップGeorge'sの展開を進めながら、01年ライフエディトリアルストアCIBONEをオープン。同時にカフェも併設し、住空間を中心にファッション、カルチャー、フードなどあらゆる分野を独自のスタイルで繋ぎ合わせる。03年には、NY発の食のセレクトショップDEAN & DELUCAの日本での展開を手がけ、食の美しさとその可能性を追求し続けている。衣食住の様々な分野で、「味わいあるくらしづくり」を目指した活動が注目されている。

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