Soup Friends

Soup Friends vol.109/前田エマさん

自分の世界がひらかれること
ひとつの“好き”から、広がり深まる世界。
様々な表現活動を楽しむ前田エマさんのベースにある、鮮やかな気持ちの在り処。



― エマさんは、ご自身のお仕事も多彩で、趣味も幅広い印象です。

はい。公私ともに、常に何かを推している人生です(笑)。私は、自分が好きなことに常に全力。今思うと、小学生の頃から学校での出来事を、毎晩夕飯の時間に母に「こんな人がいてね、こんなことがあってね…」と、話していました。どんなに長くてつまらない話でも聞いてくれていたので、ずっと話していましたね(笑)。とにかく自分がときめいたこと、感動したことを人に知って欲しい、伝えたいという気持ちが、当時からありました。中学生になって、ロックバンドにはまって、その後も漫画、将棋、日本のアイドル、韓国ドラマ…今は韓国のアイドルに夢中です(笑)。

― 最近は、ウェブマガジン〈SPINNER〉の編集長として、クリエイターたちの表現の場も作っていますね。

美術大学に通っていた時、ものづくりをする子とたくさん出会いました。彼らの作品や生き方は、とても多様でおもしろい。私の世界への見方が変わり、そのことに感謝すると同時に感動しました。この体験をもっと多くの人に知らしめたいと思いました。なので今も小学生の頃と同じような感覚で、ただただ私の周りにいる同世代のクリエイターの魅力を伝え、推したいだけなんですよね。

― “好き”が生まれると、自分の中だけに収められなくなるのですね。

はい。それを誰かのためではなく自分が好きなこととしてやっています。自分が楽しいことや、熱い気持ちを誰かに話したい…そうやって、朝から晩までときめいているので、言い方を変えれば、常に何かに恋をしているようなものですね(笑)。 
 自分にすごく好きなものがあると、それを好きでいられる自分の心も大切に思えます。そして、それが周りの人のことを理解したり、大切に思えることに連鎖していくと思うんです。誰かが大切にしているものを、自分の大切なものと照らし合わせて、理解できる感覚が芽生えるというか。
 恋愛も、他人に興味を持つことから始まりますよね。そうやって、小さな“好き”から、どんどん世界がひらいて、興味が広がって、深まっていくのが恋をする楽しさなのかな。相手を通して、自分の心の中を深く掘っていくきっかけでもあると思います。

― 自分の知らない世界がひらいていく喜びがあるのですね。

大人になるにつれて、興味の幅は狭まっていくのだと思っていましたが…全く。突然、指せもしない将棋にハマったときはびっくりしました(笑)。最初は棋士のパーソナリティーを好きになって調べはじめ、将棋の世界を知っていくうちに、これまでの歴史や伝統、ライバル関係など、将棋界の物語に惹かれていきました。過去のオタク経験から、リサーチの方法も身についているのでスピーディーに知識も蓄えられるし。好きになったらもう止まりません(笑)。

― 好きなものとの出会いは?

 好きになるものは、いつも近くにあります。友達が素敵な洋服を着ていたら、どんな人が作っているのか調べたり、おもしろそうな場所へ行った話を聞いたら、行ってみたり。SNSなどでも調べますが、周りの人の影響が大きいです。いつも好きな人、素敵な人とだけ一緒にいるので。
 私は人から見られる仕事をしていますが、自分が人からどう見られているかあまり気にならないんです。お仕事で自分の写真を選ぶ時は、なるべくかわいく写っているほうがいいですけど(笑)、人からの評価には興味がなくて。それより、自分が楽しいこと、好きなこと、良いと思うことが大切なので。どんなことに対しても、一番の理由は、「私が好きだから」でいいと思うんです。そうすると見返りも求めないし、上手くいかなくても悲しくならない。

― エマさんは、どんな人に憧れるのでしょうか?

私の人生のロールモデルは、黒柳徹子さん、瀬戸内寂聴さん、向田邦子さんです。徹子さんは、ご自身で様々なお仕事をしながら、ずっとユニセフ親善大使として活動していて、寂聴さんは尼僧や作家としてたくさんの人を言葉で救っていて。向田さんは自分のことを“いい人”として描かない強さと、その審美眼、そして周りの人を思いやる心に憧れます。みなさん自分の人生をしっかりと突き詰めているから、他人への優しさも持てる方なのかなと思うんです。いつか少しでも近づけたら…と夢見つつ、好きなことしかできない私なりに、自分の中から生まれる“好き”を、とことん深めていきたいですね。

前田エマ(まえだ・えま)

1992年、神奈川県生まれ。東京造形大学在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティングなど幅広い分野で活躍。雑誌、WEBなどでアートやファッションなど様々なジャンルの連載を担当するほか、ラジオパーソナリティも務める。

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