Soup Friends

Soup Friends Vol.71 / 上原ひろみ さん

楽器は持たず、自分の身体ひとつだけ。それがジャズピアニスト・上原ひろみさんの旅です。その移動距離はついに昨年100万マイルに達しました。留まることなく旅を続ける上原さんは、ここまでどんな思いに突き動かされてきたのでしょうか。かねてから共演を重ねてきた矢野顕子さんとの意外な関係、そして、間もなく発売されるコラボレーションアルバムについてもお話を伺いました。

──スープはお好きですか。

はい、大好きです。ツアーにはフリーズドライのお味噌汁を必ず持っていきますし、旅先でもスープをよく食べます。イタリアではミネストローネ、ロシアではボルシチ、フランスではオニオングラタンスープ、夏場にスペインへ行ったらガスパチョ、サワークリームが乗っているドイツのキャロットスープも好きですね。

──レストランのメニューにスープがあると豊かな気持ちになりますよね。私たちは実はJALさんと一緒に機内食も作っているのですが、上原さんは飛行機で移動される時、長い移動時間をどんなふうに過ごしていらっしゃいますか。

映画を観たり音楽を聴いたりすることもありますが、ここで睡眠を確保しなきゃと思って寝ていることが多いですね。

──移動中に作曲をされることもあるのでしょうか。

たまにありますが、曲はやっぱりピアノに向かって作ることの方が多いですね。作曲はお漬物をつけるようなもので、何度も何度も練って、様子を見てお伺いを立ててまた練って…という繰り返しなのです。

──去年は大ヒットしたアルバム『SPARK』のツアーをやりながらフェスにも出演されていましたし、ずっと移動していた年だったのではないでしょうか。

そうですね。振り返ると5大陸すべて行きました。それと、ついに100万マイルを達成した記念すべき年でした。航空会社のステイタスで100万マイルたまると永遠に使える特典をいただけるのですが私は矢野さんの歌も含めて即興性が大好きで、ライブを見ていてもどこへ連れていかれるか分からないワクワク感がある。彼女自身もそれが分かっていないから、いつも一緒に冒険をしているような気持ちになるんです。去年はそれを手に入れてしまいました。

──それはすごいですね。100万マイルがどのくらいの距離なのか想像が難しいですが……。

私もピンと来なかったので調べてみたら、地球40周分と書いてありました。でも、特典が嬉しいのではなく、私はピアノを弾くためにずっと旅を続けてきて、弾かせていただけるところがあるならどこへでも……という思いでここまで来たので、それをちゃんと見ていてくれた人がいたっていうところがすごく嬉しかったんです。

──バイオリンでもギターでもミュージシャンの方は自分の楽器を持っていってライブをしますが、ピアニストは行く先々で借りて弾かせてもらいますよね。よく考えたらそれはかなり特殊なような気がします。

そう、いつも借り物です。調律師の方の力も借りながらなるべく時間をかけて練習やリハーサルをしますが、ピアノと意思疎通を図るのにはすごく時間がかかります。ピアノによって鍵盤の重さも鳴り方も違って、派手な子もいれば地味な子もいて、最初は地味かな?と思っていても弾いているとつぼみを開かせるような子や、今まであまり大事にされてこなかったのかな?と思う子など本当にさまざまです。

──3月に矢野顕子さんとのコラボレーションアルバム『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』を発表されますが、なぜ普通のレコーディングではなくライブレコーディングという形を取ったのでしょうか。

これまで矢野さんとご一緒するのはいつもライブだったんですね。ライブだからこそ起きる科学反応がいつもあって、だからこのプロジェクトにはライブが向いていると思いました。

──同じピアニストとして、矢野さんはどんなピアニストとして上原さんの目に映っていますか。

私は矢野さんの歌も含めて即興性が大好きで、ライブを見ていてもどこへ連れていかれるか分からないワクワク感がある。彼女自身もそれが分かっていないから、いつも一緒に冒険をしているような気持ちになるんです。

──4月にはおふたりでライブツアーも開催されますが、曲目はそろそろ固まってきましたか。

はい。アルバムの曲をベースとして、ツアータイトルが「ラーメンな女たち」なので、そのタイトルを彷彿とさせるような内容になりそうです(笑)。

──では、おふたりともちぢれ毛で登場ですかね(笑)。今年はそのあともツアーが続きますか。

まず3月にアメリカ全土をまわるツアーがあり、そのあと矢野さんとの日本ツアーがあって、5月からはヨーロッパを周ります。

──気を付けて旅を続けてくださいね。今日はありがとうございました。

上原ひろみ(うえはらひろみ)

上原ひろみ Hiromi Uehara/79年静岡県浜松市生まれ。6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。ボストンのバークリー音楽院在学中にジャズの名門レーベル「テラーク」と契約し、03年にアルバム『Another Mind』で世界デビュー。11年に参加した『スタンリー・クラーク・トリオ feat.上原ひろみ』では第53回グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム部門を受賞。最新アルバム『SPARK』は全米ジャズ・チャートで1位を獲得。7月には日本人アーティストとしては唯一となるN.Y.ブルーノートでの12年連続公演を成功させた。今年3月8日には矢野顕子とのコラボレーションアルバム『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』を発売。そのアルバムを引っ提げ4月から矢野と共に全国ツアーを開催する

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