Soup Friends

Curry Friends 特別編 / 水野仁輔さん

「カレーに関する著書は50冊を超え、カレー愛好家たちから「カレースター」「スパイス番長」として知られている水野仁輔さん。
講演やフェスなど、各方面からたくさんのリクエストがある中、この度ついに「カレーフレンズ」としてリーフレットにご登場いただきました。カレーの奥深いおいしさにも通じる濃厚なインタビュー。じっくりとご堪能ください。

──水野さんのカレーとの出会いを教えてください。

小学生のときに両親に連れて行ってもらったインドカレー屋が、初めてカレーで衝撃を受けた体験となりました。インド調の店内やBGM、全面鏡張りのトイレなど、異空間のような雰囲気がすごく良くて。その後大きくなって自分でもその店に行くようになり、スパイスの刺激や不思議な違和感を求めているうちに、いつのまにか自分にとって自然なものになっていきました。異文化に溶け込めたときの居心地の良さを感じたこと、違和感の先にあるおいしさを見つけたことが、今につながっているのかもしれません。

──カレーの奥深い魅力を感じるためにはどうしたらいいでしょう。

スパイスの魅力を知ると世界がぐっと広がります。市販のルーはあくまでブレンドされたスパイス。これはこれで良さがありますが、クミンやコリアンダーなどのカレーの代表的なスパイスたちは、いわゆる日本人にとっての「カレー」とは違う香りがします。でも、その違和感にはまっていくと、市販のルーのような綺麗にまとまっていたものがつまらなく思える部分はあるかもしません。僕もよくイベントでライブクッキングをやっていますが、ひとつの鍋に次々とスパイスが入るのを見て「香りや見た目の変化を五感で感じて、スパイスに目覚めるきっかけになりました」という参加者は多いですよ。

──確かにスパイスの香りは鮮烈なものがありますよね。仕事で息がつまったり、気持ちがモヤモヤするとき、「カレー」を食べるとなぜか気が晴れるような気がします。これもスパイスの力なんでしょうか。

やはりスパイスの香りや刺激は大きいかと思います。日本人にとって、スパイスの香りは習慣的には摂取していないもの。カレーで使われるスパイスはある種非日常的な体験をもたらすのかもしれません。そういう意味ではSoup Stock Tokyoのカレーの中だと、僕にとっては「ぶどう山椒の麻婆カレー」は特に異文化的で新鮮でしたね。

──私たちもたくさんの素材や文化との出会いからカレーを生み出しているので嬉しいです。カレーにはどこか懐の深さのようなものを感じるのですが、そもそもカレーとはいったい何なのでしょう。

一定の配合でスパイスを配合させた「カレー粉」というものは相当すごい発明だったかもしれませんね。あれが世界に広がり、誰もが認識する「カレー」の風味が生まれた。ただスパイス自体には味を付ける作用はなく、「カレー味」というのは本当は存在しないのです。素材を引き立たせてよりおいしくするのがスパイスの役目。言ってしまえばすべての料理にカレー粉は乗っかれるんです。麻婆豆腐にカレー粉を合わせるとそれはもうカレーになるんですよね。そう考えるとスープストックトーキョーがカレーを作るのは自然な形なのかもしれません。

──一般的にはスパイスを使うことは難しいと思っている方も多いと思います。

「インドからやってきた謎多き食べ物」とされてきた歴史があるから、我々はカレー屋さんに行かないとカレーの奥深さは体験できないと思っているのかもしれません。AIR SPICE では全てのスパイスの配合をグラム単位で書いて全部レシピとして公開しています。「同業者からマネされるよ」と言われることもあるけれど、僕はカレーの作り方をもっとオープンにすることで、誰かが新しい世界を発見するという体験を増やした方がいいと思っているんです。AIR SPICE を使った方からは「なんで私にこんなおいしいカレーができるのかわからない!」と言われます。こうやって驚きや発見を一回自分で味わうと、一気にカレーとの距離が縮まりますよ。

──様々なカレーがありますが、水野さんの好きなカレーはどういうものですか?

色々言っておいてなんですが、僕は全部好きなんです(笑)。カレーの魅力の捉え方として「カルチャー」、「サイエンス」、そして「ノスタルジー」の3つがあると思っています。例えばインドのカレーを現地の調理方法のままで作ることは「カルチャー」。そこに料理学的にはこの工程をもっとこうした方がおいしくなるはず、というのが「サイエンス」。そしてその2つで説明できない、なにか懐かしさとか関係性で味わうのが「ノスタルジー」。「母親のカレー」なんかもここに入りますし、キャンプでのカレーも間違いなくおいしい。そういう意味では、私はノスタルジーを一番大事にしているかもしれませんね。サイエンスとカルチャーは探究者として好奇心が向いている、という感じです。

──たくさんの研究や活動をされてきた水野さんですが、これから先に目指していることはなんでしょうか?

まず言えるのは「究極のカレー」にたどりつきたいわけではないですね。例えば、玉葱は炒めるか、蒸し煮か、どちらが正しいかではなく、どう違うかが知りたいんです。世界のカレーを知りたいけど、それをどう感じたかが僕にとっては大事。「正統なインド料理」に対して不正解だったとしても別にいいんです。僕は料理人でもアーティストでもないから、自分が生み出すものが一番とは思わない。でも誰よりも手の内は広く見せられると思っています。投げるだけ投げて責任はとらないんですが(笑)。でもそうやって、色々なやり方をオープンにするところから何かが生まれればいいなと思っています。結構皆さんって「カレーの正解」を求めているんです。「どうやって作るのが正しいんですか?」と。でも、正解はその人の中にあるものです。そこに気付くための入り口として、まずはこれを使ってみれば?という提案のつもりでAIR SPICE を作ったのかもしれません。ただスパイスを売るのではなくて、カレーを自分で作り、味を探求する「体験」を売っているといってもいいですね。

水野 仁輔(みずの じんすけ)

AIR SPICE代表。1999年以来、カレー専門の出張料理人として全国各地で活動。「カレーの教科書」(NHK出版)、「わたしだけのおいしいカレーを作るために」(PIE INTERNATIONAL)などカレーに 関する著書は50冊以上。「カレーの学校」で講師を務めている。現在は、本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR S PICE」を運営中。

「AIR SPICE」とは、毎月あなたのお手元にレシピ付きのスパイスセットをお届けするサービスです。ご自宅にたくさんの新鮮なスパイスを常備しておく必要はありません。新しいレシピを探し求め続ける必要もありません。ちょっとした好奇心さえあれば、さまざまなカレーやスパイス料理を楽しめます。おいしくてからだにいいスパイスライフをはじめてみませんか?

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