Soup Friends

Curry Friends 特別編 /小林真樹さん

バックパッカーをきっかけに、インドの魅力にのめり込んで30年。インドの食器や調理器具など生活雑貨を販売する「アジアハンター」の店主・小林真樹さんは、インドの食文化や土地に根ざす日常を旅し続けています。家庭料理との出会いから、カレーをきっかけに広がる世界の話まで、尽きることのないインド愛をお届けします。


中高生の頃、ビートルズなど60年代の洋楽が好きで聴いていて。当時のミュージシャンって、インドと親和性が高い人が多かったんです。彼らのカルチャーの中に、ヨガとか瞑想があって。他の国にはない独特の世界がありそうだなと興味を持ち、「いつかインドに行ってみたい」と漠然と思っていました。
 大学生になり、バックパッカーでインドに行ったら、完全に魅了されてしまいました。何度も行くうちに、もっと長期滞在したい、そして現地の人とコミュニケーションがとれるようになりたいと思い、留学して語学学校に通いながら、2年ほど暮らして。留学といいつつ、インド各地を旅してばかりいたんですけどね(笑)。
 バックパッカーの時は、こだわりもなく安い食堂で食べていたので、それほどインド料理に感動したことはなくて。でも、あるお家に招かれて、ダールとチャパティをご馳走になったんです。正直、これまでさんざん食堂で食べてきたものなので、「ああ、またこれか…」と思っていたのですが(笑)、食べてみたらこれまでとは別物の料理のようにおいしかった。決して裕福な家庭ではなかったし、使っている豆やスパイスも大差はないと思うんです。だから、家庭料理がこんなにもおいしいものなのかと感動して、そこからインドのことをもっともっと知りたくなってしまった(笑)。



 ある時、招いてもらった民家の台所では、壁一面にずらっと食器を陳列して飾っていました。ステンレス製の食器で決して高価なものではないけれど、その家にとっては財産であり家庭を彩るものなんです。そういう食器が並ぶ食卓や、食器に盛られた料理を見るのがおもしろくて。
 なぜ外国人の自分が、民家に招いてもらえたのか…ときっと思われますよね(笑)。僕が外国人だから興味を持ってもらえたのかもしれませんが、インドの人は、人同士の距離が近いなと感じます。こちらから積極的に話しかけると、ちゃんと答えてくれる。あとは、行く前に下調べをして、聞きたいことを用意していくので、それをもって話しかけると、そこから発展して家に招き入れてもらうこともあります。常に情報を収集して、持って行く。僕の場合は興味がありすぎて聞かずにはいられないだけですが(笑)、そういう相手への興味や情熱は、家のドアを開けてもらうことにつながっているのかな。


現地に滞在中、お小遣い稼ぎをするために、日本のインド雑貨屋さんへ商品の仕入れをする業者でアルバイトを始めました。欲しい商品の依頼を受けて、インドの問屋さんを巡って探していくうちに、だんだんと仕入れの仕組みや、ものの相場が分かるようになって。そういった仕事の知識を蓄積して自分で始めたことが、今の仕事につながっています。
 当初は、“インド雑貨”という広いジャンルを扱っていたのですが、僕はインド人の日常生活に興味があったし、そこで使われている民具がおもしろいと思っていて。観光客向けのお店で売っているものには興味がなかった。観光地よりも、民家の中にあるものが知りたい。加えて、インドの食文化やカレーも好きだったので、その周りにある実用的なものを扱いたかったんです。
始めたばかりの頃は、日本で現地人が営むお店は多くなくて。ここ数年でインド料理店もネパール料理店もすごく増えましたね。お店同士のコミュニティの中で「こういう日本の業者があるぞ」と口コミで広げてもらいました。今も現地の言葉で電話注文が入ります(笑)。同じようなジャンルの個人業者も未だにいないですし、すごくニッチな層に向けていると思うのですが、それでも続けてこれているのは、確実に欲しいと思ってもらえる人がいるからだと感じています。




旅で巡るお店に、味だけを求めてはいません。おいしいにこしたことはありませんが、そのお店の建物の佇まいや、働いている人の表情、厨房の雰囲気、お客さんの感じなど、その空間を作るすべてが大事なんです。極端に言うと、それほどおいしくなくても、空間全体に“そこだけの味”が、あればいいと思える。
 インドは広大で人口も多いので、宗教や言語などの文化や、自然環境も様々です。地方によって、食材や調理法も変わるので、それぞれ味は違いますね。北部でも細分化すると、北の中でも北西と北北が…と、確実に違いがある。海沿いの地域は魚介を使うし、砂漠の地域ではそこでしか生産できない野菜を使ったり。山岳地域は、ひえやあわを主食にしていたり。各地域によって、食材、調理法、食べ方が違うので、そういう現地の情報をもとに旅先のルートを決めていくと、無限にあってとても時間が足りない(笑)。20年以上通っている今も、行くたびに体験が上書きされます。どこへ行っても特色があって、本当におもしろい国だなと思いますね。




インド以外に興味ある国ですか?…フランスで食べたチーズナンがすごくおいしくて。ベトナムでもナンが印象的でしたね。フランスの植民地だった時代の影響で、パン文化が残っていて。東南アジアの各国に比べると、小麦料理がおいしい。パリでも、北部にインド系の人が多く暮らしているエリアがあって。そこで食べたインド料理もおいしかったな…ってどこに行ってもカレーを食べていますね(笑)。でも、突き詰めた結果、カレーというものを通じて、現地の食文化にも出会えるので、やっぱりインド料理はおもしろいと思います。今も、すきあらばインドに行こうと思って、無限にある行きたいところについて考えているんです。

小林真樹

インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とする有限会社アジアハンター代表。商売を通じて国内のインド料理店と深く関わる。1990年頃からインド渡航を開始し、その後も毎年長期滞在。最大の関心事はインド亜大陸の食文化で、食器の仕入れを兼ねてインド亜大陸各地を、営業を兼ねて日本全国各地をくまなく食べ歩き踏破している。

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