テキスタイルデザイナーの氷室友里さん。ものづくりへの意志と、それを育む心持ちについて教えてもらいました。
—テキスタイルデザイナーを目指したきっかけを教えてください。
もともと家具やキッチンアイテムが好きだったので、プロダクトデザイナーになりたいと思っていました。でも、専門性のあるスキルを身につけてからプロダクトデザインの道に進もうと、まずテキスタイルを学ぶことに決めて。始めたらすごく楽しくて、作るたびに新しい技術が必要で勉強し足りないし、やりたいことが増えてきて。だんだん「テキスタイルもプロダクトなんだ」という考え方に変わったし、今はテキスタイルに絞って制作しながら、インテリアやプロダクトのメーカーさんと一緒にお仕事をさせてもらっています。
私の実感として、「テキスタイル」というものを、まだ身近に感じられない人も多いと思うんです。ファッションやインテリアともちょっと違うので。布であり、一つの素材。完成形ではなく、それを使って別の作り手やお客さんと一緒にものづくりができるのはテキスタイルの魅力の一つ。私の〈SNIP SNAP〉というシリーズは、布が二重構造になっていて、ハサミで切ると別の柄が出てくるテキスタイル。カットしながら自分の好きな柄にすることができて、テキスタイルそのものが主役になる一枚です。素材の域を出るようなテキスタイルを作って、多くの人に興味を持ってもらいたいです。
—大学卒業後、「スマイルズ」に所属されていたのですね。
そうなんです。「スープストックトーキョー」の店舗で1年半、ネクタイブランドの「giraffe」に異動して2年ほど働き、テキスタイルデザイナーとして独立しました。入社した時から、代表の遠山さんに「作家活動は続けたい」と話していたので、並行して作家活動もしていて。所属していた時は、有給をとって個展を開いたり、ものすごく忙しかったけれど、仕事仲間の理解があったからこそできました。毎日様々な壁を乗り越えながら働いていて、前向きな忙しさだったので楽しかったですね。
—独立した時はどんな心境でしたか?
貯金もないし仕事がある確証もなく…不安すぎて、当時住んでいた家の前にあるお花屋さんでアルバイトして。不安も少し軽くなるし、お花好きだし、やろう!って(笑)。朝の4時から10時まで働いて、その後に自分の制作をしていました。大変だったけれどこの時も楽しかった。それから半年ほどで、独り立ちして、本格的に作家活動を始めました。
独立する時に心に決めたのは、自分の気持ちに素直にやるということ。その時々の自分の感情や思いに耳を傾けることを意識するようにしていて。あとは根底に、〝なんとかなる〟って思いが常にあります。失敗しても死ぬわけじゃないし、って(笑)。それよりも、今しかできない選択を優先させていきたい。そこで何を経験するかが大事だと思うし、結果の良し悪しよりも過程から得たものが、私にはたくさんあるので。自分にとって何が良くて悪いのかは、自分の経験で判断することが大事なんだと気がついてからは、なるべく色々な経験ができるように行動してきました。何かを決めつけることもしたくないし、自由でいたい。私が作ったものをどう思ってもらえるかも、受け取った人に委ねたいんです。
—福岡で開催した個展、「氷室友里のテキスタイル展」は、いかがでしたか?
私にとってこれまでで一番大きい展示でしたが、今自分が表現したいことを、全力で出し切りました。本当に楽しかった。制作途中、周りの反応が気になりましたが、それで手を止めてしまうと、空間が埋まらなくて(笑)。自分の気持ちを強く持って作ることができました。結果的に周りからも良い反応をいただけて、「こういうこと一緒にできそうだね」って声かけてもらえたり。一歩踏み出してよかったです。
今回のような個展を、海外の美術館でもやりたいと思っています。オランダにテキスタイルミュージアムがあるのですが、とても良い空間で。いつかあの場所で個展をやってみたいと思っているんです。
テキスタイルデザイナー。2011 年多摩美術大学テキスタイルデザイン専攻卒業。フィンランドでテキスタイルを学んだあと、2013 年多摩美術大学大学院テキスタイルデザイン研究領域修了。近年の活動に、2019年三菱地所アルティアムで個展開催。2020年1月8日〜3月9日スーベニアフロムトーキョー(国立新美術館B1階)で展示販売を行う。