Soup Friends

Soup Friends vol.107/水田悠子さん

医療と美容をつなぐプロダクトを生み出す〈encyclo(エンサイクロ)〉代表・水田悠子さんの、“美しさ”を尊重するまなざしについて


― “恋”と聞くと、どんなことを思い浮かべますか?

14歳の時、自分で初めて買った化粧道具が、ビューラーでした。直接肌に塗るアイテムではないけれど、下を向いていたまつ毛をきゅっと上げるだけで、可愛くなれた気がして嬉しくて。悩める思春期でしたが、生まれ持ったもので自分のすべてが決まるのではなく、今からでも“なりたい自分になれる”と教えてもらえたようでした。それをきっかけに“ビューティー”を仕事にしたいと思うようになりました。あの時のときめき、恋のような気持ちは、今もずっと色褪せていません。

― その“ビューティー”が水田さんのお仕事の原点なのでしょうか。

そうですね。美しくありたいと思うすべての人の気持ちを“ビューティー”と言っていて、等しく尊重したいと思っています。

 目指していた化粧品会社に就職し、年齢や性別を問わず、あらゆる方の「こんな自分になりたい」という想いを大切に働いていました。でも、29歳でがんになり、治療後、職場に復帰できたのですが、前と同じような気持ちで仕事に向き合えなくなりました。あれほどやりがいを感じていたことなのに…と、そんな自分に対してショックで。悩み続けて気がついたのは、病気になる前の私は多様な人のニーズに応えるために商品を作っているつもりでも、無意識のうちにある一部の人に向けたものになっていたのではないかということでした。そこで改めて、ビューティーは贅沢や娯楽ではなく、自分らしく生きるために必要なことだと思ったんです。

― その思いが、リンパ浮腫向け医療用ストッキング〈MAEÉ〉の開発につながっていくのですね。

最初は、とにかく私自身の困りごとをどうにかしたくて。がんの治療は終わりましたが、リンパ浮腫という後遺症を発症しました。治療のため医療用のストッキングを常に履くようになったのですが、機能性は高いけれどビューティーの視点がないように感じて。命が助かったのだから、仕方がないと思う一方で、これから続く人生を考えた時に、ずっと脚を隠したり、可愛い靴も諦めたり…この先の人生を楽しんでいけるのかなと思いました。それを同じ病気の友人や、周りの人に話すとみんな共感してくれて。同じ気持ちの人がいると気がついたことで、具体的に動き始めました。だんだんと力を貸してくれる人が増えてきて、私個人の話ではなくなってきた頃、「これは自分が実現させるしかない」と、覚悟を決めて、社内コンテストに企画提案をし、新たな事業に挑戦しました。

― 2020年は、どんな風に過ごしていましたか。

春に〈エンサイクロ〉を設立して、商品開発をしてブランド作り、商品を発売しましたが、ほぼリモートで進めてきたので、「ずっと家にいたな」という印象です(笑)。自宅も引っ越したので変化の多い年でした。社員は2人のみなので、自分たちの裁量で自由にできる環境になったからこそ、メリハリをつけなくちゃいけないと思い、ちょっとしたことを実践していましたね。家で仕事をしていると、お昼ご飯もPCの前でおにぎりを食べて済ませてしまいますが、余裕のある時は、ランチョンマットと箸置きを用意して食事の時間として切り替えるように努めていました。SNSを見ると、朝ヨガをしている人や、英会話を始めている人が目に入ってきて…まぶしくて辛くなってしまうので(笑)、私は自分のハードルを上げずに、生活をちょっと潤す行動を大事にしています。
 振り返ると、たくさんの出会いに恵まれた期間でもありました。オンライン、電話、メールなど様々な方法を使って、リンパ浮腫の方にインタビューをさせてもらったのですが、首都圏外で暮らしている方や仕事の都合で会えない方など、様々な状況の方と知り合えて、現状や悩みを聞かせてもらうことができました。今の時期だからこそできたことだと思います。すごく貴重な生の声なので、これからの商品開発に活かせる体制を作っていきたいと思っています。
 〈MAEÉ〉は、商品開発だけにとどまらず、“ビューティー”というものが、誰にとっても等しく保証されていて、それを堂々と主張できる環境を作りたいという想いを込めています。これからも、生きることに不可欠なものとして大切にしていきたいです。

水田悠子(みずた・ゆうこ)

ポーラ・オルビス ホールディングスの社内ベンチャー制度より設立された、株式会社encyclo代表。「人生のいかなるときでも、美しくありたい想いを尊重したい」と、医療と美容をつなげるビューティ事業を展開。2020年12月にリンパ浮腫の方に向けた新ブランド〈MAEÉ〉の展開を開始。

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