Soup Friends

Soup Friends Vol.17 / 松任谷由実さん

シンガーソングライター・松任谷由実さんの名曲、『ルージュの伝言』とのコラボレーションが実現した『ユーミンスープ』が4月4日に発売されることを記念して、松任谷さんと旧知の仲でもある代表の遠山を交えながら、スープにまつわるエピソードや新譜、また日常の食生活についてお話を伺いました。

< 遠山 >

2月に行われた『SURF & SNOW in Naeba vol.31』では、本当に素晴らしいステージを拝見しました。ユーミンさんのステージに触れて、仕事研究家の西村佳哲さんが『自分の仕事をつくる』という著書で書かれていた“出し惜しみのない仕事”という言葉を思い出しました。どういう話かというと、安売り家具屋の店頭に並ぶカラーボックスの側面は化粧板で覆われていても、裏面はベニア貼りだとか、一部の建て売り住宅の扉が開け閉めの度に薄い音をたてるなど…そのような佇まい自体が「こんなもんでいいでしょ」という腹の内を伝えている、というようなこと。一方で、素材の旨味を引き出そうと手間を惜しまずに作られる料理や、一流のスポーツ選手による素晴らしいプレイに「こんなもんで」という力の出し惜しみはない、と。つまり、丁寧な心が通った仕事に触れる時、私たちは嬉しいと感じる、と著者は語っているのですが、ユーミンさんのあれだけ誠実なステージを観た時に、観客はどのような気持ちに包まれるのだろう、と思ったんですよね。ユーミンさんが惜しみなく精一杯にやっている姿勢を見せてくれることで、観ている我々は否応なしに頑張らなきゃ、と思うわけです。アンコールのあと、「今日も最高だけど、来年はもっとやるよ!」っておっしゃいましたよね。あの言葉には、実にしびれました。

< 松任谷 >

そうですか。苗場はね、お客様のためだけにやっているのではなく、自分のためにやっているのです。だから真剣に遊ぶことにしているんですよ。だって、いつでも辞められるのに続けているのはどうしてだろう?と思った時に、数年前にふとね、自分がやりたいからやっているんだな、と思いました。だからやるしかないし、私自身が次の自分を見てみたいと思うのです。

< 遠山 >

素晴らしいですね。私が社内で常々話しているのは、自分たちがやりたいことを絞り出して世の中に投げる、ということから始めないとだめだよね、ということです。マーケティングやアンケートを無視するという意味ではなく、答え合わせをするために活かすのならいいと思います。ただ、世の中でこれが流行っているからそれに添って考えるというようなことはあり得ないということですね。自分たちの考えを提案してみた結果、世の中に共感してもらえて、初めて心から喜べるのです。

< 松任谷 >

そうね。マーケティングって、そのマーケットから出られなくなること、だものね。遠山さんが学生だった頃から、折りに触れてひょんなことで会うことが多かったけれど、いつも好きなことをやるという炎を消さないで生きているひとだな、というイメージがありましたよ。

< 遠山 >

ありがとうございます。SSTの前進とも言える屋台のおでん屋さんをやっていた頃には、大変お世話になりました。

< 松任谷 >

ああ、そうでしたね。私、お得意様でしたよね(笑)。

< 遠山 >

はい。それが私の自慢でした(笑)。

< 松任谷 >

こうして考えると、会社は商品を売るだけではなくて、姿勢や哲学やセンスとか、そういう目に見えないものを売っていることになるのでしょうね。

< 遠山 >

そうですね。社内でいつも私が言うのは、店もブランドも会社も、ひとに置き換えて、ひとそのものだと思ってくれと伝えています。私はSSTの店は私自身だと思っているので、下手なことは絶対にしたくない。クリエイティビティーやおもてなし、考えていることや身のこなしなどに、すべて表れるんですよね。そこにお客様が共感してくださって初めて、ある種の関係性が生まれるのだと思うのです。そういう個性をどんどん出していって、気に入ってもらえれば嬉しいし、思ったことをどんどん臆せずアクションしていこうと思います。最近ね、アウトプットしていくことで、インプットが増えてくるんだなと感じています。待っていてもインプットは入って来ないんだなって。

< 松任谷 >

そうね。呼吸と同じかもね。呼吸は、吐くことだったりするからね。

──松任谷さんに幾つかの質問に添って伺います。日々の食にまつわることで、心がけていることや大切になさっていることはありますか?

< 松任谷 >

1日30品目摂るように意識していますよ。今日はどのくらい摂ったかな、って考えます。だから、スープは本当に優秀な料理ですよね。

< 遠山 >

食を通じて身体のことを考えていらっしゃるのですね。朝昼晩と3食、食べられるのですか?

< 松任谷 >

1日2食のことが多いですね。ただ、私はシンガーソングライターなので、曲を描く制作期間と、パフォーマーとして外に出る期間の生活時間が、全く違います。制作中は運動を心がけて、朝は走ったりしますし、パフォーマンスの時期には、お昼をしっかり食べて、夜は軽めにします。基本的には牛と名のつくものはあまり食べませんね。牛肉は食べませんが鶏肉は好きですし、牛乳の代わりに豆乳を飲みますね。あと、蕎麦が好きなので、自転車に乗って蕎麦を食べに行ったりします。自転車にも乗るし、よく歩きますよ。自転車をこいで、神社があるとお参りしたりして、ふっと気配を感じて振り返るとそこに自転車がいて、まるで愛馬のようだなと思ったりね(笑)。アニミズム(生物・無機物を問わないすべてのものの中に魂、が宿っているという考え方。)を感じますよ。あとね、近所の公園をジョギングしていると、アルタードステーツ(身体操作などでおとずれる変性意識状態)じゃないですけど、シカとかウサギみたいになったような感覚があるんですよね。ケンタウロス(ギリシャ神話に登場する馬の首から上が人間の形をしている怪物)とミノタウロス(頭部が牛で身体は人間の怪物)だったら、ケンタウロスの方が理想的ですよね(笑)。馬力があって知性もあって。

< 遠山 >

そのジョギングしている時の感覚、なんだかうらやましいですね。

──スープ(汁物)にまつわる想い出があれぜ、ぜひ教えてください。

< 松任谷 >

ミネストローネみたいなスープは、定期的に作りますよ。それこそ“スープストック”です。たくさん作ってストックしておきます。中途半端な時間に食べる時とかに便利なんです。野菜を切っているとなんだか安心しますよね。触れていたくなるというか。

< 遠山 >

料理という行為自体に、集中されるのですね。

< 松任谷 >

ええ。自分が作ったものを食べたくなる時があるんですよね。

< 遠山 >

ひとに作ってもらったものを食べるのと、ご自身が作るものをひとに食べてもらうのとでは、どちらがお好きですか?

< 松任谷 >

両方好きです。外食したくなる時もありますしね。でも最近は、家がいいなと思いますね。

< 遠山 >

他にはどんなお料理をなさるのですか?

< 松任谷 >

和食が多いです。その他にも、一応名のつくものはひと通り作れますよ。昔は、ほうれん草ニョッキとかを作ったりもしていました。作曲に入る時に、蓼科にある家に女性3人くらいで合宿するんですね。何でも揃う近所のスーパーマーケットで買い物をして、交代で食事をつくるんです。自分以外のひとがつくる料理を食べることで、以前つくれたけど忘れていたものなどを思い出したり、女性は喜んでくれるしお互いに刺激になっていいですよね。

──Soup Stock Tokyo(以下、SST)をご利用いただく際には、どのような場面でどちらの店舗をご利用いただきますか?

< 松任谷 >

二子玉川店や、テイクアウトでEchika表参道店なんかも利用させていただきました。

< 遠山 >

ありがとうございます。二子玉川で言うと、3月19日に二子玉川の東急フードショー内に、“家で食べるスープストックトーキョー”という冷凍スープ専門店ができました。ちなみに、お好きなスープはありますか?

< 松任谷 >

ひよこ豆が入った“牛肉とパプリカのグーラッシュ”は好きですね。あと、“緑の野菜と岩塩のスープ”もよく食べます。クリーミーなものより、野菜の形があるものの方が好きです。カレーはまだ食べたことがないですね。

< 遠山 >

SSTのカレーは小麦粉をほとんど使用していなくて、玉葱をよく炒めたものをピューレ状にしたとろみを生かしたカレーなので、女性がひと皿食べても胃にもたれないので、ぜひ一度召し上がってみてください。

< 松任谷 >

ええ、ぜひ。“赤レンズ豆と白身魚のトルコ風スープ”っていうのも昔からありますよね?東京は世界の料理が何でもあるのに、中近東系の料理だけは手薄だから、こういうラインはいいですよね。私が以前住んでいた家のお隣の奥様がレバノンの方だったのですが、レバノン料理はすごくおいしいんですよ。洗練されていて。エジプト料理もおいしいですしね。

──4月6日に発売されるニューアルバム『Road Show』についてお伺いします。新譜を通じて、ユーミンさんからのメッセージなどがあれば教えてください。

< 松任谷 >

今までも歌をつくる時には、映画をつくるような感覚でつくってきたので『Road Show』というタイトルがついてもおかしくないアルバムは他にもあったと思いますが、あえて今回それを全面に出してみる気分だったということもありますね。シネコンではなくて、レトロな響きでロードショーっていうイメージでね。あとは、自分の歌で恐縮ですが『恋人がサンタクロース』の歌い出しにある、「昔となりのおしゃれなおねえさん…」っていうところの、“おしゃれなおねえさん”ていうのは、ずっと自分の中にいる子どもが、自分の中のもうひとりのオトナを見ているところがあるんです。この『Road Show』に出てくる登場人物も、自分の中でのオトナの女性像っていうのが、たくさん出てくると思います。それは私自身が、ずっと子どもの部分を持ち合わせているからなのかな、とも思います。ずっと憧れているような。

< 遠山 >

昔から憧れていた女性像や思いみたいなことを、映画を撮るように、また脚本を描くように、あらわにしたような感じでしょうか?

< 松任谷 >

そうですね。だから、1曲1曲が、ドキュメンタリーあり、ラブコメあり、SFあり、サスペンスあり、という、様々なストーリーが詰まっています。

──弊社では、SSTとは別に、PASS THE BATONという新しいカタチのリサイクルストアを展開しているのですが、今回の新譜に収録されている『バトンリレー』という曲について、その背景などを教えていただけますか?また、この曲からユーミンさんが伝えたいことや残していきたいことを教えてください。

< 松任谷 >

この曲は、母のような気持ちになって子どもの寝顔を見ているところから始まり、別角度から見ると、そのお母さんが見えて、さらにそのお母さんが見えて…という風に、脈々と愛がつながっていく、それこそが“バトンリレー”ですね。シンプルな曲調ですが、必ずや近い将来、スタンダードとして認めてもらえる曲かな、と思っています

< 遠山 >

ユーミンさんご自身がバトンを渡す側として、という意味合いもあるのでしょうか?

< 松任谷 >

歌をつくる、ということ自体がそうですね。具体的に先人たちから音楽的な影響をいただいてきたし、音楽以外でもたくさん愛情をかけてくださった方々からいただいたものを、歌という形で一人でも多くの方に届けていきたいと思っています。

──今回SSTとコラボレーションをさせていただく『ユーミンスープ』にまつわるお話を伺います。スープのお味はいかがですか?

< 松任谷 >

鮮やかなビーツのポタージュに緑のピスタチオが載っているんですね。うん、おいしい。ビーツって輪切りにしたアングルでみると、同心円状に輪を描いていて、赤いキウイみたいですよね。ビーツの赤って、いい色ですよね。牛蒡のような、土みたいないい香りがするのに、華やかな色をしているところが、またいいですよね。日本人にはあまり馴染みがないけれど、私にとってビーツは懐かしい味でもあります。2007年の『Shangrila』ツアーの時に、ロシアのサーカス団の方々とずっと一緒だったので、国や地方によって味が違ういろいろなボルシチをつくってくれました。ウクライナ風とかグルジア風とかね。

< 遠山 >

今回のスープは和風でしょうかね。まろやかな旨味とほどよい酸味もあって。前段で触れた『バトンリレー』という曲からもインスピレーションを受けて「親世代から受け継いでいきたいこと」というメッセージを込めたので、日本人としてはやはり“おだし”は欠かせない、ということで、今回のスープは鰹だしベースに仕上げています。

──『ルージュの伝言』という曲が生まれた経緯を教えていただけますか?

< 松任谷 >

アメリカンポップスをイメージしてつくった曲です。コニー・フランシスの『カラーに口紅』は男の子の襟に口紅をつけてきて…という話だけど、それを派生させたようなテイストで口紅を登場させたかったのです。秀逸なコピーライトですよね。曲自体もよくできているなぁと思いますけど、「バスルームにルージュの伝言…」というだけで、鏡という言葉も一切出てこないのに、ルージュがどういう赤なのか想像できたりして、もしかしたら私たちそれぞれが想像する赤が一致しているかもしれないですよね。まさに、俳句の世界のようです。

──最後に、SSTは女性のお客様が多いのですが、仕事も恋も頑張っている女性たちへ、ユーミンさんからメッセージをお願いします。

< 松任谷 >

健康第一です(笑)。健康を保つためにスープは素晴らしい料理だと思います。バランスのとれた食事でバランスのとれた人格でありたいですよね。“機嫌のいいオンナはいいオンナ”って、いつも言うんです。身体のバランスを崩していると、機嫌よくできないですからね。機嫌がいいことも“バトンリレー”していきましょうよ。笑顔でいれば、周りのひとたちが楽しい気持ちでいられるしね。ずっと機嫌よくしているのは、精神力がいるんですよ。いろいろな気分の時があるけれど、そこは自分の中におさめて、っていう強さが必要ですからね。強いオンナはやさしいオンナだと思います。

< 遠山 >

いい話ですね。男性にとっても(笑)。ちなみに、そのオトコバージョンもありますか?

< 松任谷 >

オンナは愛嬌って言うけどね。オトコは度胸(笑)?!どうやって解釈したらいいだろうね?よく母が「オトコの魅力は、謝る魅力と、断る魅力よ」と言っていました。断れるオトコというのは、自分で決められるということだから。つまり、決断力ですよね。心から謝ることができたり、心から笑えるような男性や女性になれたらいいと思います。

< 遠山 >

これ、社訓にさせていただいてもいいですか(笑)?

松任谷由実/まつとうやゆみ

1954年東京生まれ。1972年『返事はいらない/空と海の輝きに向けて』で荒井由実としてデビュー。1976年、作曲家でプロデューサーの松任谷正隆氏と結婚し、松任谷由実に。1981年以来毎年開催される冬の風物詩『SURF & SNOW in Naeba』は今年で31回目を迎えた。4月6日に通算36枚目となるニューアルバム『Road Show』を発売。J-pop界を牽引する女王。

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