Soup Friends

Soup Friends Vol.23 / 別所哲也さん

俳優として舞台や映画などで華々しい活動を続ける傍ら、短編映画祭のプロデュースや、映画館の創設、ラジオのナビゲーターを務めるなど、その活動は多彩です。別所哲也さんの豊かな感性とエネルギーに満ちた行動力に支えられた朝型ライフスタイルに迫ります。

──Soup Stock Tokyo(以下、SST)をご利用いただきましてありがとうございます。普段はどちらの店舗にいらっしゃいますか?また、SSTでお好きなスープがあれば教えてください。

よく行くのはアークヒルズ店や、広尾店、六本木ヒルズ店、丸の内オアゾ店です。好きなスープは“オマール海老のビスク”や“参鶏湯(サンゲタン)”、“東京ボルシチ”などをよく頼みます。

──ご自身でお料理はなさいますか?

一人暮らしをしていた頃は必要に迫られて作っていましたが、結婚をしてからは基本的には奥さんに任せっきりで(笑)、時々料理をするくらいです。僕が作る料理は、大きい鍋で一度にどっさりと作るような、カレーや豚汁、味噌汁など、具沢山で、ごはんやパンと一緒にぱっと食べられるものが中心です。

──スープ(汁物)にまつわる想い出があればお聞かせください。

ふたつありまして、ひとつは大学を卒業して映画出演のため米国のロサンゼルスに住んでいた頃によく飲んでいた、チキンヌードルスープです。チキンや野菜、ハーブを入れてコトコト煮込むのですが、チキンと野菜の旨味が合わさっておいしいんですよね。アメリカでは風邪をひいたらチキンヌードルスープを飲むというくらい暮らしに溶け込んでいます。また、英語ではスープを“飲む”のではなく“食べる”という動詞を使うので、日本とはまた違ったスープ文化をこの頃に体感しました。
ふたつめは、30歳の誕生日にテレビ番組の特番ロケで行ったロシアのカムチャツカ半島で、軍人さんが作ってくれたボルシチです。道がないので軍用ヘリで移動するような僻地(へきち)で、熊に襲われないように河の中洲に居ろと言われたりして、相当ワイルドな体験でした(笑)。軍人さんが大きな鍋で毎晩具材に変化をつけて作ってくれるのでおいしくて飽きませんでした。ボルシチをメインに、夜はウォッカを飲むのがまたいいのです。ボルシチと合わせて究極においしかった食事が、とれたてのイクラにバターをのせて食べるトースト!僕はそれまでイクラが苦手だったのですが、これは本当においしかった!上流に向かって産卵にあがってくる鮭たちで河一面は真っ赤。手を入れるとぶつかってくるほどの密度で鮭が泳いでくるのですが、普通に手で掴んでとれるんです。新鮮なままその場でさっと捌いて、イクラをゆがき、バターをのせるだけなんですけど、あれは忘れられないほどおいしかったです。

──お仕事柄大切になさっている食へのこだわりや決まりごとはありますか?

舞台の稽古中は、よく食べて体力を保ちながら稽古に集中できるようにしていますが、なかなかゆっくり食事をする時間がとれないので、果物のようにぱっと口に入れられて消化のいいものをよく食べます。上演中は、公演の前には食事をとりません。消化に時間がかかるし、身体も重くなるので、舞台の前に食べるとしたら2時間前くらいには食事を終えるようにしています。全部が終わってから気持ちよく食べたいんですよね。特にミュージカルや大きな声で長台詞を言うような作品では、お腹をいっぱいにしてしまうと声帯や横隔膜の位置も変わってしまうので、食事の配分を考えます。朝のラジオ番組の前にも食事はとらず、液体ものしか飲みません。終わる頃にはお腹がちょうど空っぽになって、終わってからゆっくりと食べるほうがリラックスできて好きなんです。

──先のお話にあったJ-WAVE 81.3FM 「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」(毎週月-木曜日の午前6-9時OA)のナビゲーターというお仕事や、朝型ライフスタイルについてお聞かせください。

ラジオを始めてから、体調も生活リズムも大きく変わりました。基本的には“ルールをつくらないのが僕のルール”とでもいいますか、ジンクスとか決まりごとをあまりつくらず自分のルールに縛られないように、どんな時にも臨機応変に適応できる力を大切にしてきたほうだと思います。もちろん準備万端に積み重ねるべき時にはきちんと取り組みますが、そんな中、朝のラジオを始めて足掛け6年、少なくとも月曜日から木曜日は同じ時間に六本木ヒルズに居るという生活を続けてみて、ある種の型が決まった生活というものはこういうことなのだと実感しています。仕事柄、毎朝ロケ地も違えば仕事の内容も異なるので、行く先々の環境に自分を適応させることが求められますが、春夏秋冬、六本木ヒルズに行って、季節によって出てくる時間も場所も違う朝日を、同じ東京の空の下でリスナーのみなさんと共有し、朝の起点を同じ場所に置くことはすごく充実感もありますし、俳優の仕事だけではなかなか得られない新しい発見がたくさんあります。例えばスタジオに入る5時くらいの時間帯は、いつも挨拶をする守衛さんや、ビルのメンテナンスの方、いつも同じ場所ですれ違う新聞配達の方など、長い夜を終える人とこれから朝が始まる人とがちょうど交差するタイミングなんですね。いつも会う同じ笑顔にほっとしたりする安心感があるのですが、朝番組のナビゲーターとしての役割にも同じようなことが言えて、奇をてらったものや気張ったものは必要がなく、今日も変わらずにのぼってくる太陽と同じように、今日も僕がそこに別所哲也として元気に居ることが大切なのではないかと思うようになりました。きっとSSTに通うお客さまにとっても、働いているスタッフの方々の笑顔が、人知れずお客さまを安心させているような環境があると思いますよ。

──観客のみなさんが目の前に居て反応がダイレクトに見える舞台と、見えないリスナーのみなさんに伝えるというラジオでは、両者に違いはありますか?

舞台では、始まる前に緞帳(どんちょう)が降りている状態でも、お客さまが盛り上がっている日にはその気迫で舞台側に少し押されていたりします。つまり幕が開く前にその熱気が伝わってきたり、演技をしていても観客全員が同じタイミングで固唾(かたず)をのむのもわかるんですよね。それは俳優をやっているからこそのダイナミックな体験と言えるでしょうね。一方ラジオでも、顔が見えないようでいて“朝”という共通項でつながっているので、メールやtwitter、facebookなどから番組に寄せられるリクエストでライブにつながっていることをとても実感します。俳優という仕事は感情や感覚をビジュアルでも表現するわけですけれど、ラジオの仕事では音感やリズム、間、呼吸、ため息なんかも含めて、リスナーのみなさんとしっかり共有できているのです。“ラジオ脳”という言葉があるのですが、人間は耳から入ってくる情報を五感の残りの4つの感覚で味わい直すことができるのだそうです。例えば、舌触りとか手触りとか、匂いとかを音から感じ直すことができる能力が備わっているんですよね。ラジオを通じて僕もそのことを感じていて、メディアとしてはとても不思議で、プライベートにつながっている感覚があるのがラジオの面白いところですね。

──ナビゲーターとして心がけていらっしゃることがあれば教えてください。

“へえーっ”という発見や、“あるある”という共通項を見出すことで、それらをリスナーのみなさんと共有することでしょうか。僕はジャーナリストではないので、リスナーのみなさんと同じタイミングで驚いたり共感したり、自分の環境に置き換えたりして相互交流をしています。最初にナビゲーターのお仕事をいただいた時には、あこがれの“J-WAVEのナビゲーター”ですから、とても光栄でしたし、俳優としてその役割をしっかりと演じ切ろうと思って臨みましたが、リスナーのみなさんにはとうに見透かされていて、“もっと自然体の別所さんで居てほしい”なんて言われたりしたこともありました(笑)。誰か目の前の人と話しているわけではないですし、マイクに向かって話すことも、ましてや人前で素の自分を出すということも俳優としてはあまりないことですから、どうしても役柄や台詞、物語に寄ってつくり込んでいきがちなのですが、ラジオでは未完成なままでもいいというか、不完全な自分も見せていくことがリスナーのみなさんに対して一番誠実なのではないかと思うようになりました。リスナーのみなさんに育てていただいているのですね。
それから悲しいニュースがあった時には、人間として大切にすべきことと同じように、物事を一側面からではなく、多角的に捉えるようにしています。例えば舞台で言うと、僕はたまたま照明を当ててもらう役割にいますが、光を当ててくださる方もいるし、僕たちにキュー出しをしてくださる方もいる。どんな事件にも同じことが言えて、犯してしまった罪の重みはありますが、加害者にも家族があり、一概に善悪では割り切ることができない側面があるのも事実であり、何事にも光があたる内側とその外側があるのだと考えるようにしています。特に僕の番組は朝ですし、あまり暗い気持ちになり過ぎてもよくないですから、最後にはその日の朝を気持ちよくスタートしてもらえるよう「笑顔の忘れものをしないでください」とリスナーのみなさんに投げかけています。

──毎年6月に開催される「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」についてお伺いします。創設者であり、代表でいらっしゃる別所さんが、ショートフィルムに特化した映画祭をつくられた経緯をお聞かせいただけますか?

米国で映画デビューをして、ロサンゼルスに通うようになった頃、そこかしこでショートフィルムの上映会みたいなものがあるので、一緒に観に行こうと友人に誘われました。その頃の僕はショートフィルムのことを、短いし、実験的で、学生がつくるようなものだという、あさはかな先入観で拒否し続けていたんですね。ところがある日、観に行く機会に恵まれて、実際に観てみたら、見事に先入観を覆されました。優れたエンタテインメント性を兼ね備え、見応えもあるし、若い監督が描き出す前衛的な試みや、長編映画に負けない宇宙観もある。逆に未来的にすらみえて、こういった言い方は語弊があるかもしれませんが、21世紀は長編映画の時代ではなく、“燃費のいい映画”も必要とされてくるのではないかと思い、ショートフィルムの世界に魅せられたのがきっかけです。おかげさまで来年は14周年を迎えます。継続は力なりと言いますが、毎年こうして続けることができるのも、毎年愉しみにしていると言ってくださるお客さまがいらしたり、来年も出品したいと言ってくださる世界中の映像作家たちの輪がどんどん広がっていくのが実感できるからなのです。それがとても嬉しいことですし、なにより僕が抱いていたようなショートフィルムへの先入観を払拭して、ひとりでも多くの方にその素晴らしさを知ってもらいたいと思います。4年前に横浜のみなとみらいにショートフィルムの専門映画館「ブリリア ショートショート シアター」をつくったことで、映画祭に来られない方々にも年間を通じて気軽にショートフィルムをご覧いただけるようになり、北海道や沖縄からも観に来てくださったり、キネマ世代の方々が名画座を懐かしむような感覚で来てくださったりもするんですよ。

──俳優でありながら、映画祭をとりまとめたり、ラジオのナビゲーターもお務めになる別所さんですが、ご自身の中ではどのように棲み分けていらっしゃるのでしょうか?

僕の中ではそれぞれの間に境目はなくて、すべてが根っこの部分でつながっているんです。人とつながる感動を分かち合いながら、一緒に泣いたり笑ったりするという行為のカタチが変わり、その手段が演者であったり、時にラジオのナビゲーターであったり。ですから、それぞれに違和感もないし、引き裂かれるような感覚もありません。ただもうちょっと時間がたくさんあったらいいなと、時間貧乏になっているところはあるかもしれません(笑)

──最後に、おいしいものを求めて旅をするとしたらどこへ行きたいですか?

モンゴルやブータンのように、アジアの発酵食文化のあるところを訪ねてみたいです。ベトナムのニョクマムと呼ばれる魚醤みたいな調味料とか、保存のために燻製にする技術とか。ものすごく香り豊かな旅になると思います。燻すとか、だしをとるとか、発酵させるというような食の保存技術には強いカルチャー性を感じます。スープもそうですが、フードエンタテインメントもカルチャーもフュージョンなので、食材の取り合わせによって生まれる相乗効果に、とても興味があります。アジア独特の発酵・熟成型の食文化を訪ねる旅があったらぜひ行きたいですね。

別所哲也/べっしょてつや

慶應義塾大学法学部卒。90年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。以降、映画・TV・舞台等で幅広く活躍中。現在は「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」(毎週月~木 6:00~9:00OA)のナビゲーターを務める。99年より、日本発の国際短篇映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰。映画祭への取り組みから、文化庁長官表彰を受賞、観光庁「VISIT JAPAN 大使」、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員に就任。

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