Soup Friends

Soup Friends Vol.28 / 小山 薫堂さん

放送作家という肩書きを持ちながら、時に大学の学科長を務め、時に飲食店やホテルの経営に携わり、時に映画の脚本家でもあり、絵本作家でもある─。とてつもなく器用で思慮深い小山薫堂さんに、普段なかなか伺うことができない、小山流の思考の仕方や、企画の立て方、物事の選択の仕方など、伺ってみたいことを投げかけてみました。

──Soup Stock Tokyo(以下、SST)をご利用いただきましてありがとうございます。いつもどのようなスープをお召しあがりになりますか?

FM YOKOHAMAの「Futurescape」(毎週土曜9-11AM)のDJとしてレギュラー番組を持っているので、横浜ランドマークプラザ店には行きますし、それ以外の場所でも入りたくなることは、よくあります。夏は「とうもろこしとさつまいもの冷たいスープ」と「ヴィシソワーズ」、「トマトと夏野菜のガスパチョ」を飲みますね。特に「トマトと夏野菜のガスパチョ」は絶品です!ただし、にんにくがよく効いているので、ゲストをお迎えする前には気をつけるようにしていますけど(笑)。冬は「東京ボルシチ」や「緑の野菜と岩塩のスープ」、「ゴッホの玉葱のスープ」をよく食べます。時々、朝ご飯も食べますよ。本当はスープが飲みたいのですが、スープにはパンがセットになっていて、僕は朝にパンを食べる習慣がないので、なんでお粥にはウーロン茶がつくのに、スープにはつかないのだろう?といつも思っています(笑)。本当はスープとドリンクのセットがあったら嬉しいです(笑)。

──国内外をお忙しく飛び回っていらっしゃる小山さんのお仕事柄、毎週同時刻の生放送に時間を確保するのは大変ですね。過去に、ご出張先から放送をなさったことはありますか?

ありますよ。パリからインターネット電話で参加した時は、過去最大の失敗をしました。パリは日本時間からマイナス7時間なので、日本時間で9AMのオンエアーだとパリでは2AMだったんですね。放送が始まる30分前まで相当に飲んでいて、そのあとホテルに帰って音チェックまではちゃんと起きていたのですが、放送開始の直前になって、なんと寝てしまったんです…(苦笑)。スタッフは大声で何度も起こしてくれていたみたいなのですが、全く気づかず、放送終了5分前にようやく起きました(苦笑)。

──スープ(汁物)にまつわる想い出があればお聞かせください。

僕が小さい頃、スープが飲みたいと言うと、母は仕事をしていたので粉末のカップスープを作っておいてくれたんですね。忙しいなか作ってくれていたので、ちゃんとかき混ぜられていなくて、コップの底に粉末のかたまりが残っていたんですね…。子ども心にその不器用さというか、なんとも言えない侘しさみたいなものを感じて、腹立たしいけど怒る気にもなれないという(苦笑)…心にひっかかっている想い出です。それから、受験の頃、缶に入ったコーンスープの最後のコーンを逆さまにして懸命に飲もうと試みたことも想い出しますね。だからいまだに、手作りのスープには憧れているところがあります。

──美味しいものを求めて旅をするとしたら、どこへ行きたいですか?

イタリアです。まず、オリーブオイルが美味しいですし、パスタが好きなのと、人がたくさん集まってくる感じがいいですよね。特にトマトが美味しい、南のほうが好きです。鍋ひとつ持って旅したら、万が一、食材が足りなくても、知らないおじさんが「俺の知り合いのところに連れて行ってやるよ」なんて言って助けてくれそうな空気感も含めて、イタリアが好きなのです。

──人生の最期に食べたいものは何ですか?

偶然にも、ふたつとも汁物なのですが、ひとつは「蕎麦湯」です。今までに身体に入れてきた全てのものをピシッと整えてくれるような気がするでしょう?もうひとつは「桃のスープ」。あるお店のメニューで、凍らせた桃を器にして、中身をくりぬいたところに桃の冷たいポタージュが入っていて、桃の果肉を削りながら食べていくのですけど、最後にお皿のうえに残るのは桃の皮だけなんですね。そのビジュアルがあたかも亡骸(なきがら)を彷彿とさせるのです。

──お仕事柄、食事が不規則になることもおありだと思いますが、食に対するこだわりや取り入れていることがあれば教えてください。

食べる順番を気をつけるようにしていて、必ず野菜や海藻から食べます。あとは、お酢をよく摂りますね。黒酢を飲んだり、料理にお酢をかけて食べるのも好きです。

──ご自身でお料理はなさいますか?

最近はあまり作りませんが、昔はよく作っていました。作るとしたら、目の前の何かからの「逃避」で作ります。例えば、提出間近の原稿から逃れるために、あえて時間のかかる煮込み料理を作るとか(笑)。作っている間だけは、いまは料理しているんだからしょうがないんだ、と自分に言い訳ができるから。

──放送作家や脚本家ような仕事に就きたいと思うようになったきっかけとなる番組や映画はありますか?

大学生の時に観た「お葬式」や「タンポポ」といった、伊丹十三作品です。特に「タンポポ」は大好きで、僕の中のベストです。最近では、俳優の渡辺謙さんとは公私共に仲良くさせていただいているのですが、僕が謙さんに「えっ?!伊丹映画に出たことがあるんですか?」と聞いたら、「何言ってるんだよ。タンポポのトラック運転手、俺じゃん!」と言われて、そう言えばそうだったなぁって、今更気づいたりね(笑)。結構ディテールが細かくつくられているんですよね。伊丹さんのエッセイとかも、すごく面白くて好きなんです。

──放送作家という肩書きをお持ちになりながら、大学の学科長、飲食店やホテルの経営者、映画の脚本家など、実にマルチなお顔をお持ちですが、それぞれにどのような割合でお仕事をなさっているのですか?

よく聞かれるんですけど…説明するのが難しいんですよね。各案件がマーブル状になっているというよりは、ひとつにミックスされているジュースみたいなもので、それぞれに線引きはないのです。ホテルの仕事をしながら「これは番組になるかもしれない」と思うこともあるし、番組の企画を考えながら「あ、これはビジネスになるかもしれない」と思う時もありますし、学生たちに教えながら「あの企画を学生たちに考えさせてみよう」と思うこともあります。わかりやすい例を話すと、今年は僕が関わっている日光金谷ホテルが創業140周年なので、その記念事業のプレゼンテーションを行ったのですが、東北芸術工科大学の学生を連れてプレゼンテーションに参加して、教師として先方の役員に向けて「このたびはこのような機会をいただきましてありがとうございます」と言って、いざプレゼンテーションが始まれば今度は金谷ホテルの担当者として「それは、ここが甘いんじゃないか」とか言いながらコメントをして、あちらの立場やこちらの立場に行ったり来たりするような感じです(笑)。

──普通に考えると切り替えが難しそうな気もしますけれど、小山さんの場合は、何かをしながら別のことをするほうが心地よさそうですね?

そうなんです。「感覚の摩擦」とでも言うんでしょうか。何かを考える時に、同じ景色を見ているよりは、移り変わっていく景色を見ているほうが、視覚を通していろいろな情報が入ってくるわけで、そのぶん思考を刺激されるようなイメージがあるのです。

──その小山さん特有の感覚やセンスは、日々、どのように磨かれているのでしょうか?

特に何も考えてないのですが、強いて言うなら、無理をしたり、肩が凝るようなことをするのは嫌なんですよね。持ち物や洋服でもそうなのですが、それを身につけることによって窮屈に感じたり、制限されているように感じることが嫌なので、そういうものはとかく、普段から持たないようにしているかもし

──「好奇心」や「エネルギー」に満ちあふれているようにお見受けしますが、ご自身ではその「原動力」はどこから培われていると思われますか?

僕の原動力は、「人を喜ばせることが好きだ」という点に尽きると思います。それは人間の本能だと思っていて、美味しい料理を作るのも「この料理、美味しい」と、誰かに言ってもらうのが嬉しいからだと思うんですよね。僕が人を喜ばせることが好きなのは、企画であろうと、空間であろうと、ホスピタリティであろうと、その手段は問わず、元来自分の中にある性分だと思います。

──小山さんのお答えはどれもひとつの枠に収まらず、もっと知りたいという興味を抱かされます。その思考の源はどこからくるのでしょうか?

それは褒められているのかわかりませんが(笑)、決して狙ってそうしているわけではなくて、「偶然から生まれた必然」みたいなものなのです。たまたまこっちの方向に進んでいたらこれが訪れた、みたいな。それでもまだまだその機会を掬いあげきれていないかもしれないし、取りこぼしているのかもしれません。例えば、人は自分の知っていることが全てだと考えるわけで、するとその外側には何があるんだろう?と思いますよね。でも僕は、その外側のことは全く気にならず、むしろ自分が知っている世界の中でまだ自分が見つけられていないことがあるのではないか?と考え、その答えを自分の中に探すという感覚のほうが近いかもしれません。

──ある具体的なお題に向けて企画を立てるとしたら、どのような思考を辿られるのですか?

僕はそのお題をきっかけに、全く違うものを考え出すのが好きなのです。だって、お題を出す人は、散々考え尽くして思い浮かばないからそのお題を出しているわけで、そこから他人が直感的に思いつくことなんて、お題を出す人がとっくに考えていることなんじゃないかと思うんですね。そのお題を解決するために努力をするくらいなら、同じ労力をかけて違うことをやったほうがいいんじゃないですか?と、提案します。

──小山さんがプロジェクトに取り組まれる時、その問題が置かれている状況や孕んでいる課題を前に、どのようなことを心がけていますか?

基本的には「自己浄化」とでも言いますか、その人がその人自身で改善しなければいけない状況があったとしたら、僕はそのきっかけになれたり、その気づきを与えることができればいいなと思って仕事をしています。その後は、その人自身に極めてもらい、問題をクリアしてもらうのが理想的ですよね。例えば、片側にある水をもう一方に流したいと思う場合、僕たちが水を汲んで移してあげるのではなく、すうっと線を引いてそこに水が流れるように、最初の一筋をつくってあげられるような仕事をしたい。つまり、その人自身が夢をみるきっかけをつくれたらいいなと思っているんです。誰かに何かを与えられるより、その人自身が考えつくほうが、きっと思いついた時に嬉しいと思うんですよね。

──普段から相手の心情を慮っていらっしゃる小山さんにお伺いします。美食家としても知られる小山さんが「食事に行きたいと思うお店」の条件とは?

お店というのは人間みたいなものだと思うんです。すごく愛想がいいからといっていつもその人に会いたいかと言うとそういうわけじゃなくて、たまにはガミガミと言ってくれる人に会いたくなる時もありますよね。お店も同じで、誰と行くかによっても違いますし、ひとりで行くとしてもその時の気分や体調によって行きたいと思うお店は変わりますし、寂しい時はひとりで座っても隣りの人が話しかけてくれそうなお店に行ってみたりね。例えば、あるお店を予約していても、何らかの理由でお店を変えたほうがいいと思うような出来事があった場合は、そのお店との関係を考えます。あらかじめ僕のために食材を用意してくれるようなお店なら予定どおり行きますし、僕が行かなくてもウォークインで入るようなお店だったらキャンセルすることもあるかもしれない。そういう意味で言うと、「常にその時にできるベストな選択をしたい」と思っているかもしれません。

──お話を伺っていると、常日頃からあらゆることを想定して、相手に心を配って選択をなさっているんですね。だから、人を喜ばせることができるのでしょうね。

筋書きをつくるのが仕事という意味では、そういう部分もあるのかもしれません。将棋の棋士が、自分の一手の後の相手の一手を読み、さらにその先を読んで…何手先まで読んで指すことができるかという話がありますが、そういうことと似たところがあるかもしれませんね。もちろん、想定外のことが起きることがまた嬉しくもあるのですけれど。

──地域活性にまつわるプロジェクトも多く手がけられていますが、大切になさっていることがあれば教えてください。

僕自身が熊本県天草市の出身だということもあるかもしれませんが、大都市ではなく地域に出向くのが大好きなんですよね。地域にはそこにしかない良さがあるので、そこに暮らす人々が、結果的にその土地の魅力に気づくことができるような観光キャンペーンをやりたいと思って企画をしています。

──最後に、SSTにご来店のお客さまへメッセージをいただけますか。

「好奇心」を持ち続けてほしいと思います。例えば、女性なら「子どもがいるから」とか、仕事なら「これは向いてないかも」とか、それぞれにいろいろな事情があると思いますが、とにかく諦めずに、いまの自分を信じてほしいです。でも、SSTにいらしているお客さまは、センスと経済的なゆとりがあるという証なので、この記事を読んでいるという時点で、充分に自信をもって、自分の可能性を信じていいと思います。

小山薫堂/こやまくんどう

放送作家、脚本家。N35inc.、株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ代表。東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科長。1964年熊本県天草市生まれ。日本大学藝術学部放送学科在籍中に「11PM」で放送作家後、「ニューデザインパラダイス」などの斬新なテレビ番組を数多く企画。「料理の鉄人」、「トリセツ」は国際エミー賞に入賞。 2008年公開の「おくりびと」では初めて映画脚本に携わり、第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。現在は「ZIP!」(日本テレビ)や 「小山薫堂 東京会議」(BSフジ)に携わり、「Futurescape」(FM YOKOHAMA)のDJを務め、著書も多数。他にも、九州新幹線元年事業総合アドバイザー、観光庁観光アドバイザー、日光金谷ホテル顧問など活動分野は多岐に渡る。

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