Soup Friends

Soup Friends Vol.33 / カヒミ カリィさん

独特な透明感のある歌声を持ち、妖精のような可愛らしさの一方で凛とした女性の強さもあわせ持つ、カヒミ カリィさん。活動はミュージシャン、フォトグラファー、文筆家とさまざまな分野に及び、現在は1児の母であり、妻でもあるカヒミさん。欧米からの呼び声も多く、映画やファッション誌など多くのシーンで世界中を飛び回る。昨年からNYに拠点を移し、新しい生活が始まった現在の暮らしはどんな毎日なのか、お話を伺いました。

──これまでに食べた「スープ」にまつわる特別な思い出はありますか?

スープというと、風邪など病気の時に作ったり作ってもらったりする事が多いので、良い思い出が沢山あります。それから私が主人と出会ったばかりの頃に、彼がNHKの料理番組に出た事があるのですが、その時にNYの友人から教えて貰ったという「毒出しスープ」という名前のスープを作っていました。色々な野菜をみじん切りにして水から煮込んで作るシンプルなデトックススープです。今ではすっかり我が家の定番スープになって、娘も大好きです。

──スープストックトーキョーではどんなスープを召し上がりますか?

はい、広尾のお店で友人や家族と時々ランチに行っていました。ミネストローネやとうもろこしのスープ、かぼちゃのスープなど洋風のスタンダードなものを選ぶことが多いですが、カレーやチゲなどアジア料理も大好きなので試してみたいです。

──食に対して心がけている事などがあれば教えてください。

好き嫌いはほとんどないので何でも食べられるのですが、季節の野菜を中心にしてなるべくオーガニックのものを選び、皮ごと調理することが多いです。家では砂糖のかわりに米飴やメープルシロップを使ったり、 オイルは生で使うものと火を通すもので使いわけたりして、食材のもつ性質や効能を意識して調理しています。薬食同源の考え方が好きです。

──誰かに教えてあげたい、忘れられない「おいしかったもの」はありますか。

大好きだった祖母が作ってくれたおにぎりです。子供の頃に祖母の家にお泊まりをするのが本当に嬉しかったのですが、今あの味を思い出すと、泣きそうになります。いつかあんなおにぎりが作れるようになれたら…と思っています。

──生活の拠点をNYに移されましたが、「食」の観点から、 NYは住んでみていかがですか?

普段は夕ご飯は自炊が殆どですが、たまに友人達と家でランチをする時にデリカテッセンで買ったりしています。NYは沢山の人種が集まっている場所なので食のバリエーションも豊かで面白いです。ギリシャにカリビアン、インドネシア料理など、日本ではマニアックな料理も手に入りやすく、美味しいです。

──アメリカの文化の中にいらして、刺激になる文化に触れたというご経験はありますか?

NYはとても国際的でアメリカの中でも特別な街なので特にそうなのかもしれませんが、多様性から生まれる文化が面白いなと思います。最近興味深かったのは、今娘の幼稚園を考えているところなのですが、公立なのに音楽学校の幼稚園があったり(ハイクラスで競争率が凄く高いのですが、公立なので授業料は無料!)、私立ではアートスクールの幼稚園があったりなど、まるで大学を選んでいるかのようです。

──カヒミさんが纏っていらっしゃる雰囲気やセンス、こういったものを育てるのは、日々、どんな生活の中から生まれるのでしょうか。ご自分で意識なさっている事はありますか?

独身時代は映画を沢山観たり旅をしたりなど、自分自身の時間がたっぷりあってそれを謳歌していましたが、今は3歳になる娘がいるので毎日、基本的な事をこなすだけで一日があっという間に終る感じな日々を送っています。でも実は子どもができたらからこその知識や興味も沢山あって、それを掘っているととても面白いのです。人一倍好奇心が強かったり、新しい事を知るのが好きです。

──「歌う」という事を仕事にされている方もいらっしゃれば、ライフワークとして歌い続ける方もいらっしゃると思います。そもそもの、 「歌いたい」と思う衝動について教えてください。

実は、歌を歌う事というよりも音楽を聴いたり作ったりするのが好きで、歌はその一部といった感じなのです。歌いたいと思う衝動にかられる時はよくあるのですが、それは街中を独りで歩いている時だったり、 娘と一緒に歌ったりなど、仕事の時よりもプライベートの時に突然くることが多いです。先日、NYでレコーディングがあったのですが、 終ってから家に着くまで、ずっとレコーディングで歌った歌をうたって帰りました。NYだと、誰かが鼻歌を歌っていても誰も全く気にしないので、気楽で解放感があって良いのです。

──カヒミさんの曲を聴くと、包み込まれるような言葉の柔らかさに触れる気分になります。作詞をするときは、最初に日本語で書かれるのでしょうか?頭の中のベーシックな言語は何語なのでしょうか。「ことば」に対して思うことを教えてください。

頭の中は日本に住んでいるときは100%日本語ですが、海外に住んで外国語を日常で多く使っていると混ざって来て、例えば夢の中でも外国語のことがあったりします。今までの作品で自分で歌詞を書いたのは、 日本に住んでいる時が殆どなので頭の中は日本語がベースでしたが、多分NYで書くと違うことになると思う。面白い質問ですね。今、娘は日本語と英語を同時に覚えているのですが、言葉と情緒の関係はとても深く影響があるように思うので、とても気を付けています。

──心情描写の表現は、自分の中で言いたかった事と重なりますか?または、あくまでも(曲の)主人公が思うことで、自動的にその主人公が話したり思ったりするのでしょうか。日ごろから作品とどのような距離感なのか教えてください。

自分で書いた詩は直接自分から出たものなので距離はないと思います。 他のアーティストに書いてもらって歌う時は、もしかしたら俳優に近い感覚かもしれない。役自体は自分そのものではないけれど、でも自分と距離があるかというとそうではないというか。悲しいから泣くのではなくて、泣くから悲しくなるような…そんなちょっと独特な感覚です。

──カヒミさんの作品を、どんな人に届けたいと思っていらっしゃいますか。

沢山の方に!

──ずばり、カヒミさんの「原動力」はなんでしょうか?

kind of love

──妊娠と出産、子育て、カヒミさんご自身の制作活動にはどんな影響があるのでしょうか?お子さんと一緒にいる時間が作品や音楽活動にどんな風に変化をもたらすのか、もしあれば教えてください。

子どもが出来てから今までというもの、まるで障害物競争をしているような慌ただしさで、実は制作活動も大変だったりするのですが、一段落して以前のように自分の時間がゆっくりとれるようになったら、前よりも効率が凄く良くなりそうな予感がします・・笑。娘が描く絵や歌はものすごくパワーがあって、アーティストとしての自分に良い影響を与えていると思います。迷いのない、自由な線やメロディーは本当に美しいと思います。

──「家族」とは、カヒミさんにとって、ことばで表すとどのような存在ですか?

大きな一本の木。そこに沢山の生き物が集まって時間が流れるからです。

──海外に暮らす、良い事と難しいなと思うことをそれぞれ教えてください。

自分のルーツを意識する機会が増えることでしょうか。今まで無意識だったことに気付いたりする事は一時混乱しますが、でも結果的にとても自分にとって為になることだなと思います。

──日本の女性たちへメッセージをいただけますか。

日本人女性はいつの時代も優しくてタフで本当に素晴らしいと思う。見えないけれども人生を大きな羽根で羽ばたいている。海外にいると余計にそう思い、誇りに思います。

──最後に未来に向けての質問です。今、取り組まれたいプロジェクト、またはとても気になる人物などがいらっしゃれば教えてください。

生態学者の宮脇昭先生。国内外で土地本来の潜在自然植生の木群を中心に、その森を構成している多数の種類の樹種を混ぜて植樹する「混植・ 密植型植樹」を提唱し活動している方です。宮脇先生の森に対する考え方は、環境以外の事にも通じるように思い、とても素晴らしいと思います。

カヒミ カリィ/かひみかりぃ

1968年3月生まれ。ミュージシャン、フォトグラファー、文筆家。1992年からソロ活動を開始し、国内海外のアーティストとの共同プロデュースアルバムを次々に発表。1996年から約10年パリに移り住み、1998年、全米でもベストアルバムを発売し全米ツアーを敢行。音楽制作の他にNHK FMのパーソナリティー、映画の字幕監修なども手掛け、またカルチャー誌やファッション誌、文芸誌などで写真や執筆の連載を多数手掛ける。結婚、長女の出産を機にオーガニックボディケア製品のプロデュースを手掛ける。2010年には初作曲作品を中心に構成したアルバム『It's Here』を発売。翌3月には自身初となるエッセイ本『小鳥がうたう、私も歌う。静かな空に響くから』(主婦と生活社)を出版。

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