Soup Friends

Soup Friends Vol.38 / 蓮村 誠さん

東京・南青山にあるアーユルヴェーダクリニックにて医療診察に当たる傍ら、全国各地での講演活動、書籍執筆、雑誌の連載など、マハリシ・アーユルヴェーダの普及に精力的に取り組まれています。「アユールヴェーダ」の考え方に基づいた本質的な生き方や食事療法を指南する蓮村誠先生は西洋医学からアーユルヴェーダに出会い、自らの健康を取り戻した事をきっかけにこの道を歩き始めました。提唱されている食生活がどんなものなのか、お話を聞きました。

──蓮村先生が「アーユルヴェーダ」に出会ったのはいつどんな事がきっかけだったのですか?

大学を卒業して25歳くらいから6年間ほど、基礎医学の1つである「病理学」というセクションに勤めていました。当時は毎日本当に忙しくてね、当然アーユルヴェーダなんて知らなかったし、すごく不規則な生活をしていました。体重は増加し、高コレステロール血症や肝機能障害の疑い、胃潰瘍や様々な病気が併発しました。すべての原因は乱れた食生活でからだに溜めた毒でした。わたしのからだの中で毒が氾濫を起こしていたのです。毒というのは、食べたものがちゃんと消化しきれなかったものなんですね。本来であれば栄養素が吸収されれば血や骨になり、熱量となり、「オージャス」という生命エネルギーになるべきなのですが、からだの中に不要に残ってしまった未消化物となり溜まってしまう。アーユルヴェーダでは「アーマ」と言います。とにかくからだ中に毒、溜めまくりです(笑)。西洋医学では対処療法はありますが、根本的な毒出しは行いません。すっきりいきいきと元の自分の元気な姿に戻った感じがしない。そんな時に、アーユルヴェーダとの出会いがあって、根本からちゃんとからだを整えなければならないのだと知ったのです。そのために食事がとても大切だということ教わりました。何をどのようにして食べるか、というのがとてもやっぱり大事で。なぜなら、人間のからだには、食べたものを消化する「アグニ」という呼ばれる火の力があります。消化、つまり燃やす力があるから、食べたものが血や肉になっていき、オージャスに変換されていく。でももし、アグニが弱かったら、食べたものを燃やすことができず、アーマになってしまう。

──いわゆる「消化力」である「アグニ」とはなんでしょうか?

人間のからだには、食べたものを燃やす力、「アグニ」(消化力)があります。燃やす力があるから、食べたものが血や肉になりオージャスに変換されていきます。多くの人は健康になるための「何を食べるか」だけを良く気にしますが、アグニを保つことも、元気にすることも、どんな食生活をするかによって決まってくるのです。自分がどの程度の消化力を持っているかという事をふまえて食べていく事が大切です。

──先生がアーユルヴェーダに出会ったのは?

本です。アメリカの医者が、アーユルヴェーダの理論を量子力学の視点で書いた本を読んで、「なんだこれは? ちっとも良わからないぞ」と思いながら惹かれていきました。当時東洋医学に興味があったわけではないけれど、本を手に取ったということはよっぽど体調が悪かったんですね(笑)。それから真剣に学んでみようと思いました。当時、インドからアーユルヴェーダの医師が日本に来ていたので、その先生について学びました。そのとき、まずはアーユルヴェーダの基本的な考え方や診察の仕方、そして処方などについて実際に勉強したのです。

──アーユルヴェーダは現地では日常的に信じられているポピュラーなものなのでしょうか。

インドで医学といえば、西洋医学とアーユルヴェーダの2本立てです。2つの病院が隣接している国です。
薬局に行っても、アーユルヴェーダの薬草が沢山並んでいます。インド人でも西洋医学中心の人もいるし、アーユルヴェーダしかおこなわない人もいます。人それぞれです。ただ、インドではアーユルヴェーダの歴史も古いので、家庭の中で当たり前のように智恵として息づいています。例えばスパイスに関する知識は、元々はアーユルヴェーダの智恵ですからね。このスパイスは消化力を強める、このスパイスは身体を冷やす、なんていう智恵はお母さんが当たり前に知っています。キッチンファーマシーですね。お母さんは家族の健康状態をみながらスパイスを選んで調理をします。そういう意味ではどの料理もすべてカレーといえばカレーですね。煮たり焼いたりする一般的な調理法に比べて、スパイスを使うと格段に消化がよくなります。

──アーユルヴェーダは、マッサージやオイルスパなどのイメージがありましたが、食事が根幹にあるんですね。

生きることは“食べる”を基本とします。食べ物がいのちを繋いでいますから、いかに食べるかがとても大切ですね。そういう意味で、「食」の産業はとても重用な役割があると思います。どんなものを、どんな風に提供するのか。外食が食事の大半を占める現代では、生かすも殺すも食べ物次第ですから。責任重大ですよ。

──そうですね、求められるがままに作ると、知らない間に偏りのあるメニューになってしまうかもしれません。

このクリニックでおこなわれているアーユルヴェーダの診療では、「教育」をとても大切にしています。あなたはこういう病気ですから、これを処方します、という具合に一方的に伝えるのではなく、さまざまな脈診や問診などでしっかりと患者さんの体調を把握してから、その方の体質やその乱れの状態を伝え、その上で、必要な食事や生活の在り方など教えていきます。そして、本人がちゃんと智恵を持ってそれらを活かしていけるようにしていくのです。最終的には、なんでも自分でわかり、自分でできるように、つまりうち(クリニック)が必要ではない状態を作るのが目標です。

──診察はどんな風に行われるのでしょうか?

最初は1時間、2回目は30分の診察を行います。脈診をすれば、その方の体質やからだのバランス状態が解ります。からだの中のどこで、何が起きているのか。実はこういう物を多く食べていますね、などと私生活と原因を同期づけて解決へ導いていきます。具合の悪さと食生活の原因が導き出せれば、大抵すっきりしてクリアになり、それだけで人は半分くらい治るんですよ。何故自分がこうなのか?と解らないと苦しいのですが、それが解ると楽になるんです。それはとても大切な気づきなんですね。

──外食と手作りの食事はどのくらいの割合にするべきでしょうか?

勿論、理想はすべて手作りです。でもね、よほどのことがない限り、毎食すべて作りなさいとはいいません。外食は確かに、自分が作る食事と比べると、劣る部分も多いのですが、現実的には避けることはできません。毎食外食するのではなく1回は家で作ってくださいとか、せめてお米だけでも炊いてくださいとアドバイスします。食事というのは、材料が新鮮で純粋であって欲しい。そして消化に良い事を考えてもやっぱり作りたてがいいのです。アーマになりにくく、沢山のオージャスになりやすいからです。実は、食べたものは完全に消化されなければ、オージャスになりません。作って時間が経ってしまったものや新鮮ではない素材を使って作った料理は、オージャスになりにくいのです。しかし、基本的には食事は自分で選ぶことができますので、できるだけ素材の良いものをつかっている食事、それから温かいものを食べて欲しいのです。スープは消化がいいですねから、毎回スープを取るようにしてください。せめて1日1回、野菜中心の夜の食事にスープを食べて下さい。夜遅くに帰宅してから自分でスープを作るのは大変ですよね。帰りにスープストックに寄ってね(笑)。自分が豊かになった感じがする食事が良い食事なのです。風味の良さ、喜び、満足とか、幸せを感じる食事。新鮮であったり、素材が純粋であったり、加工されてなかったり、色々な要素が合わさって実現するでしょう。

──これまでで一番思い出深かった食事はどんなものでしょう。

味噌汁です。もっとも定番の家庭の汁物ですね。今は家族が作ってくれますけど、味噌汁ってすごく難しいなと思います。その時の自分のからだにぴったりの味ってなかなかないんですね。塩分も含めて、どんぴしゃだな、今日の味噌汁ってね。そう思える味噌汁が食べられた時はとても嬉しいです。

──朝食はどういったものを召し上がりますか。

ドライフルーツとナッツを煮たもの。有機の、オイルコートしてないレーズンを大さじ1、ドライ無花果とプルーン、デーツをひとつずつ。アーモンドは薄皮を剥いたものとカシューナッツ、胡桃を4~5粒、かぼちゃの種ぱらぱら、これらを10分くらい良く煮るんです。朝はいつもこれと白湯だけです。お昼はお蕎麦、インド料理、基本的には菜食なので野菜炒めなども食べますね。夜は家で食事をします。お酒もあまり飲みません。米は消化の良いインディカ米ですね。後はギーというインドの精製バターとスパイスを使った野菜のサブジ(炒め煮)などを食べます。イエロームング豆のスープ、味噌汁など、さまざまなスープなども食べます。肉はたまに鶏肉くらい。肉は牛・豚・魚も食べません。あえて言うならしらすくらいかな。

──ストレスやショックな事などの気持ちの部分は食欲に繋がったりなど。こころとからだが繋がっていると御著書の中でもおっしゃっていますが。

「アグニ」(消化力)は、食べたものを消化するだけでなく僕らのこころが見たり聞いたりしてこころが取り込んだものを処理し消化する力も持っているんです。例えば人間関係などで、ひどいことを言われたとしても、アグニが強い人はその時に感じた嫌な思いをさっと燃やす事ができるんですね。アグニが弱い人はいつまでもくよくよする。これを、食べ物のフィジカルアーマ(毒素)に対して、メンタルアーマと言います。一方で、アグニが強くてどんな物事でもすっと処理しこころに影を落とさない状態を寛容と言います。食事を見直していく事で、精神の強さを作っていけるのです。アグニが強ければだれでも寛容になれるのです。食事を見直していくことで、精神の強さを作っていけるのです。現代人が一番アグニを弱らせる原因は、冷たいものの摂り過ぎです。その点、温かいスープは素晴らしいですね(笑)。 いつも元気でいるためには胃の中を温めることが大切です。

──食べたものは、オージャスになるまでにどれくらいの時間がかかりますか?

口に入り、胃や腸で消化され、血液中に吸収され、肝臓でさらに代謝された後、血液を流れてからだのさまざまなに器官に行き渡り、最終的にオージャスになります。牛肉や豚肉や魚がオージャスになるには早くて2~3週間と言われています。その間、からだはずっと消化し続けなければなりません。一方、温めたミルクは30分と言われています。炊きたてのご飯は1~2日です。

──オージャスを食べ物以外で増やす方法はあるのでしょうか?

一番簡単なのは瞑想です。瞑想すると直接オージャスが増えます。そうすると、むやみやたらと食べなくても大丈夫ですね。アグニが弱っている人ほど量を食べます。なぜなら、アグニが弱いためにオージャスを作れないからです。しかし、たくさん食べても、アグニが弱いのでオージャスにならずにアーマ(未消化物)ができてしまいます。そして、からだがだるい、日中眠い、やる気が起こらない、身体が重い感じがする、便秘になる、自分がどうしていいのかわからない、願望を叶えようという気持ちにならない、などの症状があらわれます。スープはアーマを浄化するのにとても良いんですね。定期的に、夕食を野菜の温かいスープだけにすると、アグニ(消化力)の負担が減り、からだの中が軽く、良く燃えるようになる。夜、時々、スープストックに行って豆乳のポタージュを飲んで、お米を少しだけ食べて、以上(笑)。日本米ではなくて、長米種のインディカ米を採用したらどうですか? スープともとても相性がいいと思います。日本米は重くて消化しにくいですからね、麦飯もいいですね。それからお湯のサービスをすれば、画期的だと思うんです。外食の店で白湯飲みができるなんて、とてもいいと思うけどな。白湯飲み部なんてどうでしょう。是非とも白湯サービスをしてください。

──クリニックを運営なさったり、本を出されたり活動の原動力はなんですか?

成り行きですね(笑)。でも後ろ向きではなくて前向きですよ。自分の人生は、こうなっていくんだなという理解がありますから。こういう役割、つまりダルマ(使命)ということです。私は西洋医学にあまり興味がもてなかったんですが、唯一興味をもったのが脳だったので、病理学の中でも神経病理を専門としました。当時の私には漠然とした疑問があったんです。私たちには色や形のない「意識」がありますよね。一方で形のある「からだ」というものもある。この両者の関係についての興味があったんですが、果たして「神経病理」でその答えが見つけられるのかが定かではなかった。そんな中、自分が体調を崩し出会ったのがアーユルヴェーダだった。こころ(精神)とからだの関係がそこで見えてきたんですね。今から思えば、アーユルヴェーダをやるために医者になり、そして病気になったんだな、と思います。

──患者さんを有るべき姿に近づけて行きたいという想いがあるんでしょうか?

アーユルヴェーダは、医療を不要とする「完全な健康」を目指します。健康のために生きていくのではなくて、健康であれば、自分の幸福も豊かさも実現することができます。それのお手伝いをしていきたいと思っています。まだまだ患者さんを通して学ぶこともあるし、より優れた医師から教わる知識も多いですから、日々勉強だなと思います。西洋医学って、とてもマイナス思考だと思うんです。なぜなら、病院にいってハッピーになって帰ってくる人ってあまりいないですよね。病院に行けば、具合の悪い部分や「病気」だけを指摘され、それを検査で徹底的に追求されて、あげくにとても否定的なことを言われたりします。アーユルヴェーダは全く反対で「健康」という視点から、より健康になっていくための処方がなされます。西洋医学では、傷みや病気を取り除くことはあっても、ほんとうの意味で健康にはなっていきません。たとえば、風邪をひくということは、からだがアーマを燃やすために熱を出している状態なのですね。からだが自分で元の健康な状態に戻していこうとしているのですが、西洋医学では薬でその熱を抑えてしまう。それではアーマがなくならず、また風邪をひく原因を残してします。つまり、熱はなくなるけれども、健康にはなっていないのです。こんな風に、西洋医学は熱とか痛みとか、症状や病気のことは詳しいですが、アーユルヴェーダは健康になるための方法を知っているのです。

蓮村 誠/はすむら まこと

医療法人社団邦友理至会理事長、マハリシ南青山プライムクリニック院長
1961年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業、医学博士。オランダマハリシ・ヴェーダ大学、マハリシ・アーユルヴェーダ認定医。特定非営利活動法人ヴェーダ平和協会理事長。東京慈恵会医科大学病理学教室および神経病理研究室勤務の後、1992年オランダマハリシ・ヴェーダ大学、マハリシ・アーユルヴェーダ医師養成コースに参加。現在、診療に当たる傍ら全国各地での講演活動、書籍執筆、テレビ出演、雑誌の連載などマハリシ・アーユルヴェーダの普及に努める。著書に、「毒を出す食 ためる食」「白湯 毒出し健康法」(ともにPHP文庫)、「いのちの取り扱い説明書」(講談社)、「黄金のセルフオイルマッサージ」(河出書房新社)、「ファンタスティック・アーユルヴェーダ」(知玄舎)など多数。

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