Soup Friends

Soup Friends Vol.69 / 山内マリコ さん

女性が隠し持っている本音をズサッとひと刺し。女性という生き物のズルさ、痛々しさ、生命力を丁寧な言葉で綴り、地方と東京という存在を見事に対比させながら作品を織り成しているのが、作家・山内マリコさんです。彼女の代表作のひとつ『アズミ・ハルコは行方不明』が蒼井優さん主演により映画化され12/3から公開になります。「この作品がすでに遠い過去のよう」と話す山内さん。今どのような季節を迎えていらっしゃるのでしょうか。

──Soup Stock Tokyoにはときどきお越しいただいているそうですが、どんな時にご利用いただいていますか。

私にとっては駆け込み寺みたいな、頼もしいお店です。ひとりで外出した時など、お腹が空いても女性がフラッと入って小腹を満たせるお店ってなかなかなくて。カフェでゆっくりする時間もない、でも美味しいものを手軽に食べたい!というわがままをSoup Stock Tokyoはいつも受け止めてくれるのでありがたいです。ボルシチを頼むことが多いのですが、最後はご飯をスープの方に入れて食べちゃいます(笑)。

──山内さんにとって、ひとりでご飯を食べる時間というのは、どんな時間ですか。

女性のひとりご飯を寂しいと思う人もいるかもしれないけど、私は大好きです。特に結婚してからは食事の支度がけっこう憂うつだったりもするので、料理から解放されるだけで本当にうれしい(笑)。誰にも気兼ねなくリラックスして、好きなものを好きなように食べられるなんて、「サイコーだ!」と思いながら内心ニコニコしてます。誰かと一緒に食べる楽しさとは別の、自分を取り戻すような喜びがありますね。

──映画『アズミ・ハルコは行方不明』は山内さんの同名小説が原作です。ご自身の作品が映画化されるのはこれが初めてだと思いますが、小説を書かれる時は登場人物の容姿や声など、映像的なものは詳細にイメージしながら書いているのでしょうか。

シーンとしては映像的に思い浮かべながら書くのですが、キャラクターに関しては特定の誰かをイメージして書いたり、当て書きすることはあまりないです。でも、『アズミ・ハルコは行方不明』の愛菜、映画では高畑充希さんが演じてくれましたが、この人物は特例で、ネットでたまたま見つけた可愛い女の子の写真をプリントアウトして、それを見ながらイメージを広げていきました。

──山内さんは大阪芸術大学在学中は映像を専攻されていて、名画座で観た映画の作品評をブログで綴っていらっしゃいますが、もともとは映画の世界を目指していたのですか。

そうなんです。そう思って大学へ入ったら、集団行動がすごく苦手で……(笑)。でも、何かを作りたい、自分の中から出てくるものをかたちにしたいという思いはどうしてもあって、小説だったらひとりで書けるということもあり、卒業する頃にはなりたいものが小説家に変わっていました。

──『アズミ・ハルコは行方不明』は、高校生、ハタチ、アラサーという3世代の女性を、彼女たちの現実と実年齢とを照らし合わせながら描いていますが、山内さんは11月に36歳になられて、いわゆるアラフォーと呼ばれる年齢になりました。年齢だけで計れるものではないですが、小説で描きたいもの、自分の中から出てくるもの が変化しそうだな、という予感みたいなものはありますか。

すごくあります。『アズミ・ハルコは行方不明』は32歳のときに、自分の中に残った20代の気分をふりしぼって書きました。まだ3年くらいしか経っていないのに、他人事みたいに遠い過去に思えてしまう。自分でも戸惑うくらい年齢による変化は大きいし、なにがリアルかはそのときそのときでガラッと変わるので、年相応のテーマを追求して書いていきたいです。

──これまでは、地方と東京を常に対比させて描いていらっしゃましたが、そこにも変化がありそうですか。

これまでは作品の軸も私の気持ちもまだ地方にあったけれど、東京での暮らしが長くなるにつれて、ここでの暮らしをどうするか、どうなるのか……という興味の方が色濃くなってきました。新作『あのこは貴族』の舞台は東京で、東京生まれ東京育ちの女性と、地方から東京の大学へ進学して、そのまま東京に腰を据えている女性が登場します。そのふたりの関係を、喧嘩させずにうまく同居させながら描いたつもりです。対比はしても、対立はさせたくないんです。

──同じ都会生活者でも、その二者には明らかな違いがありますよね。そう感じているのは地方出身者の方だけかもしれませんが……。では最後に、山内さんにとっての原動力、小説を書き続けることが出来ている力の源を教えてください。

お陰さまで今はけっこう忙しくて、毎日のように締め切りに追われているのですが、へこたれそうになった時は、小説家になりたくてもなれずにくすぶっていたときのことを思い出すようにしています。大学を出てから、念願だった単行本を出すまでに10年くらいかかっているので。ニート状態のときは精神的にかなりキツかった……。あの時のことをときどき思い出して「やりたいって思ってた仕事をしてるんだよ!」と自分を奮い立たせて、エネルギーに変えながら何とかやっています。

山内マリコ(やまうちまりこ)

山内マリコ(やまうちまりこ)/作家。1980年富山県生まれ。08年に「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞を受賞。12年『ここは退屈迎えに来て』で作家デビュー。地方に生きる女子たちのリアリティを見事に描き出し、様々なジャンルのクリエイターから称賛を受ける。主な著作に『さみしくなったら名前を呼んで』『パリ行ったことないの』『かわいい結婚』『買い物とわたし』など。2年ぶり長編小説『あのこは貴族』が集英社より発売したばかり。映画『アズミ・ハルコは行方不明』新宿武蔵野館ほかにて公開(配給:ファントム・フィルム)

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