Soup Friends

Soup Friends Vol.75 / 小倉ヒラク さん

味噌や醤油、納豆にヨーグルト、お酒など、私たちの生活にとても身近な発酵食品。「発酵デザイナー」の小倉ヒラクさんは、その目には見えない発酵の働きを、デザインを通してわかりやすく、楽しく伝える活動を続けていらっしゃいます。そもそも「発酵デザイナー」のお仕事とは?発酵の魅力とは?お話を伺いました。発酵をめぐる冒険に、いざ出発です。

──スープ(汁物)はお好きですか?小倉さんにとってスープとはどんなものですか?また、スープとの印象的な思い出があれば教えてください。

僕にとってのスープは、もちろん「お味噌汁」です。身体がボロボロだった20代の僕を救ってくれた恩人(汁?)であり、和食の根幹を支える素晴らしい文化です。

──食にまつわることで、暮らしの中で心がけていることや大切になさっていることはありますか?

暮らしの中心は「台所」だと思っています。何かを食べること、食べるものをつくることは暮らしの最大の喜びであると同時に、コミュニケーションや出会いの場でもあり、経済や環境のことを知る学びの場でもあります。

──「発酵デザイナー」とはどのようなお仕事なのでしょうか?

ひとつは「微生物の見えない働きを、デザインの力を使って見えるようにする仕事」。もうひとつは、「微生物の力を使ったテクノロジーを使い、社会のなかに価値を埋め込んでいく仕事」と定義しています。

──ご自身が「発酵デザイナー」として活動されるようになったきっかけは何ですか?

20代半ば、駆け出しデザイナーの時に頑張りすぎて、身体を壊したことがきっかけです。その時発酵博士の小泉武夫先生に出会いました。「発酵食を食べて身体を良くしなさい」とアドバイスしてもらい、毎朝お味噌汁や納豆を食べるようにしたら、実際に体調が良くなっていきました。

──「発酵」のどのような部分が魅力的だと思われますか?

「おいしい」「健康に良い」という身近な入り口から始まって、食の歴史や文化、生き物の仕組みがわかる奥行きも同時に兼ね備えている部分だと思っています。

──映画『いただきます みそをつくるこどもたち』では、園児が味噌を手作りする様子が描かれていました。小倉さんも「手前みそワークショップ」に長く携わっていらっしゃいますが、継続する中で感じられたこと、変化したことはありますか?

昔より圧倒的に若い参加者が増えました。震災がきっかけで食や環境に興味を持つ若いお母さんたちが発酵や手前みそに興味を持ち始め、そこから美容やコミュニティづくり、ローカルカルチャーやDIYムーブメントなど、幅広い領域に興味を持つ人たちが、僕のワークショップに参加するようになりました。

──先日発売された著書『発酵文化人類学』では、「発酵食の文化は地方の文化に通じる」と書かれていました。フィールドワークで様々な土地に赴き、食と文化に触れる中でどのようなことを感じられますか?

地域の文化は、自然環境と人間の文化の2つが化学反応を起こして生まれます。人と自然が関わり合ってできるのが「風土」であるということを発酵文化は教えてくれます。

──同じく書籍の中で、その土地で独自に発展した個性的な発酵食品を取り上げていらっしゃいましたが、これまで出会った中で「これは絶品!」という食べ物や飲み物があれば、ぜひ教えてください。

高知県の嶺北(れいほく)地方にある「碁石茶(ごいしちゃ)」という発酵茶です。複数の発酵菌が関与することで生まれる、一般的な緑茶にはない旨味と酸味が魅力です。

──発酵デザイナーとしての活動を通して、どのようなことを伝えていきたいですか?

見えない自然の力が僕たちの暮らしを豊かにしてくれている。その不思議さ、奥深さを伝えていきたいと思っています。

──私たちが発酵食の面白さに触れるには、どのようなことから始めたら良いでしょうか?

毎朝一杯のお味噌汁!

──今後深く掘り下げたい、またはすでに注目している分野があればお聞かせいただけますか?

世界各国のお味噌汁的な発酵スープの文化に出会う旅に出たいと思っています。

──最後に、小倉さんの活動の原動力になっていることは何だと思われますか?

世界の文化の多様性、そして底知れない微生物たちの可能性にいつもワクワクしっぱなしです。

小倉ヒラク(おぐらひらく)

発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市の山の上に発酵ラボをつくり、日々菌を育てながら微生物の世界を探求している。絵本&アニメ『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。2015年より新作絵本『おうちでかんたん こうじづくり』とともに「こうじづくりワークショップ」をスタート。のべ800人に麹菌の培養方法を伝授。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で発酵学の講師も務めているほか、海外でも発酵文化の伝道師として活動。今年4月に書籍『発酵文化人類学』を出版。2017年10月7日(土)より、映画『いただきます〜みそをつくる子どもたち』がアップリンク渋谷ほか全国順次公開。

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