今年こそはきちんと「だし」をとれるようになりたい。けれどなんだか手間がかかるし面倒そう…。『だし生活、はじめました』著者の梅津有希子さんも、かつては同じ悩みを抱えていたといいます。そもそも「だし」のとり方とは?どうやってはじめたらいいの?無理なく続けられて、日々の料理をグッとおいしくする「だし生活」をはじめるコツについてお話を伺いました。
──梅津さんが食に興味を持つようになったきっかけは?
もともと食べるのは好きでしたが、実は結婚して間もない頃は、全く料理が好きじゃなかったんです。編集者時代は忙しくて、自分の食事すら作る余裕もないので、仕事帰りに近所のコンビニや駅前の飲食店に寄ってしまうことも多くて。身体を壊しそうになったこともありました。
──料理が苦手だったとは意外でした
駅から遠くに引っ越して、外食もスーパーもコンビニも近くにないので仕方なく家で料理を作るしかない…。それぐらい料理は億劫でしたね。けれどある時、女性誌の仕事で料理研究家を取材する機会があって。プロの仕事を間近で見ていると、盛り付け方のちょっとした工夫とか、食器を変えてみるだけでも料理がおいしそうに見えるんですよね。そういうコツみたいなものがわかってきて、仕事を通して料理の面白さに目覚めました。
──それから少しずつご自宅でも料理するようになったんですね?
そうですね。夫も食べることが好きなのでその影響も大きかったです。取材先で教わった料理を家で再現すると夫がいろいろと感想をくれるので、私もそれに応えようと料理の幅も広がって。2011年ごろからは、毎晩終電帰りの夫に作っていたごはんを“終電ごはん”と名付けてInstagramに夜な夜なアップしていたんです。すると、とある編集者の方の目にとまって実話ベースの料理本『終電ごはん』が生まれました。この本を出したことで、食への探究心がさらに高まりました。
──そこから「だし生活」が始まっていくのですね。
だしは料理の基本なので、きちんととりたいという思いはずっとありました。でも自分にはハードルが高くて、だしをとるのは大晦日の年越し蕎麦とお正月のお雑煮の年2回くらい。毎年やり方を忘れちゃっていましたね(笑)。1年365日のうち363日は顆粒だしやだしパックを使うことがほとんどでした。「だし」を勉強しようと、まずはいろんな料理本を読んでみましたが、ある本では昆布だしを「60度で40分加熱する」なんてレシピも。それじゃ家庭では続かないですよね。けれど料理本を研究していくうちに気づいたんです。それはだしのとり方は人によって手順も分量もまったく違うということ。プロの仕事を身近で見ようと、だし教室を探して片っ端から通ったりもしました。そこでもやはりだしのとり方は千差万別。それまでは「だしのとり方はこうあるべき!」みたいな一つの正解があると思っていたけれど、実はその反対で「どのやり方も正解」だったんです。つまり結論は「自分がおいしいと思うだしがとれたらそれでいいんだ!」ということ。難しく考える必要はないんです。それがわかってからはだしを気楽に考えられるようになりました。
──だしを毎日の生活に取り入れるためのポイントはありますか?
ポイントを挙げるとしたら、「プロのレシピ通りに作らなきゃ」と頑張りすぎなくていいと思います(笑)。「だしをとった後のかつお節はしぼってはダメ」とか、「煮干しの頭とはらわたを取らないとダメ」と書いてあることもありますが、それはプロの料理人の仕事。私たちがつくるのは家庭料理ですから、難しく考えず、肩の力を抜くことがいちばんだと思います。あと乾物は贅沢にたっぷり使ったほうがいいですね。私の場合はかつおだし1リットル作るのにかつお節は30g。濃いめのだしの方が化学調味料になれた舌でもだしのおいしさに気づけると思います。とはいえだしに正解はないので、自分のやりやすい方法を見つけるのが無理なく取り入れるコツですね。
──始めたものの、なかなか続かないという人も多いです。
続けられないという人は、もしかしたら「だしの本当のおいしさ」を知らないからかもしれません。とにかくまずは一度試してみることをおすすめします。「おいしい」を知ることは、続けるための大きいモチベーションになりますから。「おいしい」と「無理なく続ける方法」がわかると、もっとおいしい料理を作りたくなりますよ。
ライター/編集者/だし愛好家。1976年、北海道出身。雑誌編集者を経て2005 年に独立。現在、女性向けのweb や雑誌、書籍を中心に、食、ペット、暮らし、発信力などのテーマで執筆や講演を精力的に展開している。著書に、ドラマ化もされた『終電ごはん』(幻冬舎)をはじめ『だし生活、はじめました。』(祥伝社)などがある。昨年12月に『もっとおいしい、だし生活』(祥伝社)を出版。