Soup Friends

Soup Friends Vol.83 / 鹿児島睦さん

2018年「Soup Stock Tokyoイヤーカップ」に続き、今回「スープの器」もデザインしていただいた鹿児島睦さん。陶芸作家の鹿児島さんが、普段どのような器を使われているかをお話しいただきました。器の選び方から、会社員を辞めて表現の道へ進んだ経緯、表現をする上のアドバイスまで、鹿児島さんの生き方が伝わるようなお話が聞けました。

──今回「スープのための器」を作っていただきましたが、その器についてご紹介ください

波佐見で江戸時代から作られてきた『くらわんか椀』をモチーフにし、そこに蓋もつけました。蓋がついたことで温かいものは温かいままいただけて、蓋をお皿としても使える。蓋つきのお椀は見た目のかわいらしさもあるなと思っています。今はこの器を作る人は少なくなっていますが、無くなっていくもの、少なくなっていくものをきちんと残していきたい、という思いもあります。普段このような器を使わない方が、どのように楽しんで使っていただけるかを見てみたいですね。

──普段使われているお気に入りの器はどんな器ですか?

自宅で使っているのはウェッジウッドの業務用のシリーズが中心です。洗いやすくて重ねられて、電子レンジもオーブンもOK。こういったものは自分では作れませんから。あとはヨーロッパの古い食器も好きで、海外に出張に行く度にお店や蚤の市を覗いてしまいます。特にオーバルのプレートは作るのも好きですが、いいものを見つけるたびに買ってしまいます。家には似たようなオーバル皿がたくさん積み上げられて、都度そこから使っていますね。

──ご自身の器は使われますか?

実は自分で作ったものはあまり使わないんです。お客様にはいいものから渡したい。納得のいくものからお客様に出していきたいと思っています。一方で、自分で使うとしたらいいものを使いたい。自分が欲しいようなものを作っても、結局それはお客様の手に渡していく。そうしていくと手元には私のお皿が残らないのです。

──自分に合う器の選び方を知りたい方にアドバイスをいただけますか?

出会いを大事にしていいと思います。たまたまこういう絵が入っていたとか、こういう色だったとか。それがすごく好きだと思ったら、それを中心にコーディネートしたら面白いかもしれないですね。全部同じシリーズやブランドでそろえるのもいいですが、自分の感覚でこれが自分に必要だと思えるような器と出会ったら、気にせずひとつひとつ選んでいいと思います。流行ではなく自分が会話するように愛せるものがいいですね。言葉だと難しいのですが、自分とその好きな器の間に、何か自分が大事にしているようなモノがあることを意識するといいかもしれません。例えば「用の美」と「様の美」とありますが、そのどちらなのか。自分が使いやすいなと思うものは美しく思うし、美しいと感じるものは、たとえ最初は使いにくくても次第に手が歩み寄って使いやすくなっていく。どちらも正しいのですが、人間と器の関係に、その自分にとって大事なモノが真ん中にあるような気がします。基本的には所詮道具。ですが様々な物事の中に、自分で選んだ道具や食器があると楽しいかもしれません。

──鹿児島さんは会社勤めから、陶芸の世界に移られました。会社員の経験から得られたものはありますか?

美大を出たのになぜ就職したんだと当時は周りからも言われましたが、自分が作ったものをどうやって売っていいのかもわからなかったし、働いて社会のシステムを知っておこうという感じでした。最初に働いたインテリアの会社では、作家さんが個展をするスペースがあり、そこで自分の表現のクオリティを落とさずに商売をする方法を学べたのかもしれません。そのあと働いたインテリアショップでも、作品の価格と価値のバランスを知る非常にいいトレーニングが出来ました。絨毯や家具など「何が好きなんですか?」と聞いて「じゃあこんな家にしましょう」とアドバイスしていた経験から、自分が作る器もそこから考えられるようになりましたね。整えられた食卓の中央にちょっと変わった柄物をぽんと置く感じ、それを自分が表現していこうと思えました。会社員時代は仕事が好きで会社が好き。土日すらほとんど仕事をしていました。カーテンの採寸もできる陶芸家はきっと少ないと思います(笑)

──表現の世界に飛び込もうとしている方に一言いただけますか。

オリジナルを作ることが大事です。まずは世にあるものを見て、なぜこの柄が入っているのか、なぜこの造形なのか、真似をして学んでいくことも大事ですが、最終的にそこから離れていくことが大事です。あとは続けることですね。といっても私は今でもつかめてないですが…。どうやったらいいのかと、いつも考えています。だから今は様々なプロジェクトを試しているんです。ずっと自分をアップデートしていかないといけないですから。

鹿児島睦(かごしままこと)

陶芸作家。福岡生まれ。美術大学卒業。インテリア会社に勤めた後、福岡の自身のアトリエにて陶器やファブリック、版画を中心に製作。動物や植物などをモチーフにした朗らかで独特な世界観が人気。

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