Soup Friends
Soup Friends Vol.86 / 村上恵美子さん
世界中の入りにくい居酒屋をたずね、おいしい料理はもちろん、そこで繰り広げられるおかしくも愛おしい人間模様をおさめた番組の名物プロデューサーです。
旅での出会いからスープを開発している私たちも共感する部分が多い村上さんに、旅先でおいしい料理に出会うための秘訣を教わりました。
──「世界入りにくい居酒屋」という番組タイトルが特徴的ですね。
ガイドブックに大きく書かれたようなところでなくて、地元の人が1日中入り浸ったりして、なんとも愛されている、路地を入ったところの分かりにくい居酒屋さんへおじゃまする番組です。
番組の中でさまざまな料理がでてくるのですが、放送初回のナレーション撮りの際に、これなら簡単そうと、薄いトーストにバターとにんにくで炒めたマッシュルームをのせた「シャンピニオントースト」を作って出演者にお出ししたのがきっかけで、番組最後に旅先の料理が登場するのが恒例です。
今では「番組も作れる料理人」と呼ばれることも増えましたね(笑)。
──番組に登場するようなおいしい店はどのように探されているんですか?
地元の人が来ているかって、言葉が分からなくてもなんとなく分かるんです。
路地裏の小さな店なのに人があふれていたりすると、まずは入りますね(笑)。
店内に入ったら、片っ端から誰が何を食べているのかをぐるっと観察して、どんどん試してみます。
地元の人がこぞって何かを食すには必ず理由がある。いいお店だと「よくたどり着けたね」という感じで、店主やお客さんが出迎えてくれたりします。
──おいしい店に共通点はあるんでしょうか。
いい店主がいると、お客さんもいいお客さんで。そういう店主はたいてい根本的にもてなしが好きなんですよね。
「だれだれさんに、おいしいものを食べさせたい」という気持ちを感じます。
私は、まさにその気持ちがおいしいものを作っていると思っているんです。
それが番組の生命線にもなっていますし、全ての回に共通するテーマでもありますね。
──これまで出会った旅先の料理で忘れられない一品を教えてください。
11月という閑散期に行ってしまい、アマルフィ海岸周辺の店も閉まっていて、いい店が全然見つからなくて。
ようやく一軒、タクシーの運転手さんに教えてもらった店に向かってみたら、お母さんが出てきて「あなた達なんでこの時期に来たのよ」と、がははって笑われて。「うちでゆっくり食べていきなさい」と言ってちょっとしたコースをこさえてくれたんです。
その中の一品がスペルト小麦のスープ。具は麦だけ。水からスペルト小麦をいれて、風味付けはイタリアの鰯で作った透明な魚醤コラトゥーラとオリーブオイル数滴。塩も入っていないんです。
──どうして、そんなに心に残ったんでしょうか。
それこそ、風邪をひいたときにお母さんが作ってくれるような料理でした。
私自身、なんでも手作りする母の影響からか、小さい頃から食いしん坊で、小学校一年生くらいから料理をするのが好きだったんです。
社会人になって情報番組のディレクターをやって、料理のコーナーも担当して、プロデューサーになってからも、料理に関する仕事をたくさんしてきて、正直、おいしいものをたくさん食べてきました。
それでも、素材と数滴の調味料とオイルでこんなに感動が生まれるんだという驚きと、その味が忘れられないんです。
──おいしい料理に出会うためにできることはありますか?
誰かにやってもらったら記憶に残らないし、知ることができない。その一品に出会う過程も含めて、料理って味わうものなのかもしれないですね。
自分でトライ&エラーを繰り返すたびに、どんどん嗅覚のようなものが冴えてきます。
あと、私が旅をするときに大切にしているのは「この国で“おいしいね”ってなんて言うんですか?」と確認することなんです。
「この土地のおいしいものを教えてください」というフレーズは定番ですけれど、それだけじゃなくて、ちゃんと“おいしいね”って伝えることが会話のとっかかりになります。
ひょっとしたら、もっとおいしいものに出会えてしまうかもしれません(笑)。