Soup Friends

Soup Friends Vol.87 / 森岡督行さん

東京・銀座で「1冊だけの本を売る」書店として、国内に限らず海外からも注目を集める森岡書店。
今回の企画の選書にも携わっていただいた、店主の森岡督行さんに、本との付き合い方や選び方についてお話を伺いました。
「1冊だけ」だからこそ生まれる、本との深い関係性。森岡さんの話から見えたのは、自分の視点を変えてくれる「本」という存在の魅力でした。

──改めて、森岡書店とはどういった場所か教えていただけますか。

「1 冊の本を売る書店」として、ある1冊の本を軸に、その作家さんの作品などの展覧会やトークイベントなどを常時行いながら本を販売しています。
実際に作家さんとお客様がお会いして交流が生まれたりしていますが、
「1冊の本を介したコミュニケーションの現場でありたい」と思っています。

──森岡さんの最近の読書について教えていただけますか。

今読んでいるのは三谷龍二さんの「すぐそばの工芸」と赤木明登さんの「二十一世紀民藝」。
それぞれ第一線で活躍されている工芸作家さんですが、どちらもこれからの工芸に一石を投じていくような内容なんです。
新しい扉が開かれるのではないか、次の何かが生まれるのではないかと感じさせる本は、
時には直接線を引きながら、何度も読んでしまいます。
いい本と出合ったら頼まれていなくても、自分自身で読むための書評を書くことも。
結果的にそれが仕事に生きる場合もありますね。

──読書をこれからしたいという方に、「本の選び方」をアドバイスするならどのように伝えますか?

今の自分に、ではなく、昔の自分に教えてあげたいという本を選んでみたらいいかと思います。
例えば私なら、7歳の自分には谷川俊太郎の「生きる」という絵本。
世界は豊かであるということが分かります。
12歳の自分には、「星の王子さま」を。
星の王子さまとさまざまな星との出合いから、宇宙のひろがりへの興味を促したいです。
学問のスタートとしていいのではないでしょうか。
17 歳くらいの自分には、丸山真男の「日本の思想」。
この時分は、恋愛やスポーツはもちろん、勉強もしないといけない年ですよね(笑)。
この本は、樹形図になっている学問の体系が、平易な文章で綴られています。
私は受験勉強で苦労をしたんですが、この本によって、もっと自分事として学問をとらえていたら、また勉強への向き合い方も変わっていたかもしれないですね。
20代の忙しく働いている自分には、都築響一の「ROADSIDE JAPAN」を。
好きなものを撮って、その独自性を見出すという点が都築さんの特徴なのですが、
ガムシャラに働いていた自分にちょっと視線を外すことの大事さを伝えたいです。

──SNSなどが隆盛の今、時代が変わってきたことで、本を読むこととはどんなことなのでしょうか。

今は、知識や情報はインターネットで得る時代ですが、本というかたちで出力されている知識や情報にも、興味深いものがたくさんあると考えています。
本屋に行くたびに、どんな世界観に出合えるのかというワクワク感がすごく好きです。
また、自分の子どもに読み聞かせをする行為はかけがえないものです。
家の棚に自分の選んだ本があって、ふとそれを目にするだけでその本の内容やその時の記憶を思い出す。こういう「体験」も本の醍醐味だと思います。

──森岡さんご自身が、本によって視点や世界が変わった体験があれば、教えてください。

20代の後半に、谷川俊太郎の世界観や詩に触れられたことは大きかったですね。
実は若かったころはちょっと世の中を斜に見ているような人間だったのですが、
谷川俊太郎の作品や文章によって、世の中を肯定的に見ることや、豊かさは日常にたくさんあふれていることの大切さを知って考え方が変わりました。
バートランド・ラッセルの「西洋哲学史」の冒頭に「世界は2つのものからなる」という表現があるのですが、世の中には社会問題などたくさんありますが、私は豊かさや幸せのほうを担当して生きていこうと思いました。

──森岡さんにとって「読書」の魅力とは何でしょうか。

自分の世界の外を見ることができる「窓」みたいなものですね。
未知の世界観に触れる。それによって小さい変化かもしれないけど何かが変わる。
世界がどんどん広がっていくような感覚。時間と空間の豊かさを得られることが本の1番の魅力です。

──最後に、料理にまつわる本で何かおすすめがあれば教えていただけますか。

伊丹十三が翻訳した「ポテト・ブック」はどうでしょう。
ポテトにまつわる料理本なんですが、伊丹十三のエッセイ調の文章も面白くて、
料理好きな人のプレゼントにぴったりだと思います。

森岡督行(もりおかよしゆき)

1974年生まれ。株式会社森岡書店代表。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『本と店主』(誠文堂新光社)、などがある。「森岡書店総合研究所」というコミュニティーサイトでは、店主と作家による企画の打ち合わせを文字化。「カケル」と題し短期連載として配信中。

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