Soup Friends

Soup Friends vol.96 / Chika Higashi

東京・清澄白河にある一点物の日傘屋「Coci la elle(コシラエル)」の代表で、 日傘作家のひがしちかさん。現在、生活の拠点を長野に移し、子育てをしながら活動を続けています。
一本ずつ描かれた色彩の美しさを、日常のアイテムにして私たちに届けてくれるひがしさん。
傘作りへの思い、今の生活について話を伺いながら、好きなことを続けていく心持ちについて教えてもらいました。(文:菅原良美)


「コシラエル」は、今年で10年目に入ります。傘作りを始めたのは、絵を描く仕事がしたいと思ったのがきっかけでした。白地を張った傘に下書きせず、そのまま絵を描いている日傘と、描いた絵を生地にプリントして撥水加工をかけて作る雨傘。この作り方は初期の頃から変わってないですね。

今みなさんが使っている傘は、数百円で買えるものがほとんどだとかもしれません。でも、傘ってすごく手間のかかる作りで、ビニール傘でさえ人の手が入って作られています。私が作っている傘も、“作品”になってしまうと、なかなか手にとってもらえなくなってしまう。だから“作品”でもあり“商品”でもある価値を探りながら、その間にある何かが生まれたら…と試みています。10年続けている今も、それが出来ているか自分では分からないのですが…。でも表面では単純に見て「素敵!欲しい!」「楽しい傘!」と感じてもらえる傘屋でいたいと思っています。

先日、傘のハンドルを作ってくれている職人さんに会いに行った時、他愛のない話をしてるだけなのに、感動して涙が出てきて。戦争を体験した世代の職人さんなのですが、話してくれることが本当に貴重で面白くて、生き抜くエネルギーとバイタリティを感じる。彼らに会うと、私ももっと頑張りたいって思えるんです。帰り際に「娘に食べさせてあげて!」って、パンとか海苔を持たせてくれて(笑)。そういう職人さんと仕事ができることもありがたいし、大切にしています。



1年ほど前、家族で長野の山奥に引っ越しました。傘を制作するアトリエも移したので、今はほとんど長野で過ごしています。引っ越す前は、東京の暮らしより、のんびりできるのかなあと思っていたら、めちゃくちゃ忙しい!(笑)。今朝も飼っているニワトリを野ギツネが襲いにきていて。私たちはニワトリが産んだ卵を食べているから、ニワトリを守るために猟犬も飼っているんです。子育て、家事、動物のお世話、薪割り、傘作り…仕事も生活も地続きで。今は、小さな赤ちゃんがいるので、自分時間では動けない時期だし、あまり無理もできない。最初からすべて思い通りになんていかないって思いながら、自分の時間を少しでも見つけて、集中して制作をしています。


この前、描きたい気持ちはすごくあるのに全然良い絵が描けない時があって。アトリエにこもっていたのですが、ふと外に出てみたらぱっと気分が変わった。ほんのちょっとのことなのに、外で空を見上げるだけでも違うんですよね。外に出て、身体を回したり伸ばすだけで、気分が変わるんです。

あと、体調が悪い時や気持ちがふさぎこみそうな時は、夕飯を軽くしています。私はたくさん食べてしまう方なので、どんどん身体が重くなってしまう。だから、そういう時はスープやお味噌汁だけにすることを心がけていて。身体から軽くしていきたいなって。



長野は水も野菜もとてもおいしいです。外食も好きですが、周りにお店がないので、ほぼ毎日みんな一緒に家でごはんを食べています。夕方、キッチンで呑みながらごはんを作ることが、日々のちょっとした楽しみです。あとは、たくあんを漬けたり、今年は初めて味噌も作りました。次はお米作りにチャレンジしたいと思っていて。お米を買うために傘を作るより、お米そのものを作れたらいいんじゃない!?って。今後の夢は“半農半傘”です(笑)。

私は毎日、ささいなことでもクリアできたことがあればオッケー!と思っていて。うまく出来ない時って誰にでもあるから。だからこそ、できなかったことを並べるより、ちゃんと朝起きれた、子供が風邪をひかずに保育園に行けた、オッケー、ラッキー!と思う。そうして子供も自分もほめてあげながら過ごしていきたい。「コシラエル」も、みんなが健康に働けて、1日ずつ重ね続けていけたらいいなと思います。


ひがしちか

1981年長崎県生まれ、長野県在住。日傘作家。2010年、一点物の日傘屋「Coci la elle(コシラエル)」をスタート。現在は清澄白河と神戸にお店を構え販売している。近年は、本の装画や執筆も行う。著書に『かさ』(青幻舎)がある。

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