Soup Friends

Soup Friends vol.98/岡野 道子さん

住宅、オフィス、ホテル、災害公営住宅の設計、地域の交流拠点づくり、子どもたちとつくる公園プロジェクト。建築家・岡野道子さんの活動は多岐にわたります。「条件から答えを導き出すだけが仕事ではないです」と建築家の役割を語り、本当に必要としている人の懐に飛び込んで設計する。岡野さんがこれまで向き合ってきた建築のこと、そして、心を動かす空間について話を伺いました。


高校生の時にオーストリアの現代建築の展示を観て、初めてデザインの格好よさに触れ、建築学科への進学を志しました。ポストモダンと呼ばれる時代の奇抜な内容で、それまでは“建築=家”という印象でしたが、「建築はこんなにもデザインされたものなんだ」と驚いたことを記憶しています。
大学院修了後は伊東豊雄建築設計事務所に所属して、劇場や美術館、オフィス、こども園の設計や、被災地でのまちづくりに携わりました。建築の設計は、用途以外のことを想像することも大切。劇場であれば、上演していない時はどう見えるか。演劇やオペラを観に行く時の高揚感を盛り上げるには、劇場までの動線はどうなっているのが効果的かも考えます。

熊本地震の影響を受けた甲佐町では災害公営住宅や集会所「みんなの家」を設計しました。「みんなの家」は100平米未満の人が集まる最小限の空間で、テーブルを囲って集まる場所の他に、縁側をつくり、人が対面しなくてもいい空間も取り入れました。公営住宅は心地よい風速の風が巡るように家を少しずつずらして配置したり、年配の方が多いので、住民同士でコミュニケーションがとれる小道を作ったり、家の色や植栽を変えて画一的にならないように気をつけました。
 私が教えている大学では、建築学部の中に“プロジェクトデザイン研究室”があり、学生は社会や被災地の問題を建築的なアイデアで解決することを学びます。いろいろな場所に出かけて建築だけでは解決できないことも考えるのですが、例えば、漁村で海底の地層を研究する先生の話を聞いたりします。学生の時から生物が好きなので、私も楽しいですね(笑)。
 「100本のスプーン あざみ野ガーデンズ」で進行中の、子どもたちと一緒に実際に公園をつくるプロジェクトでは、参加者の “ コドモ建築家”の言葉に毎回驚かされます。「滑り台は登った時にこんな風景が見えて、滑り終えたらふわふわの草があって、そこにパフってなるんだ!」というように、子どもたちは想像したことを物語のように語るのが上手。大人は外側から説明しがちだけど、自分の視点を他人に伝えることの大切さを、改めて実感しています。



「そもそも、建築ってなんだろう?」という問いは常にあります。世界にはたくさんの建築があるけれど、集落のように人がデザインしていないものも建築と捉えることができますよね。場所なのか、環境なのか、空間なのか。これは掘り下げる価値のあるものだし、探究心の尽きないテーマです。
 私が心を動かされるのは、教会や古代ローマのパンテオンのような光の入り方が美しい建築。以前、携わった劇場「座・高円寺」がまさにそんな建築で、黒いテントのような外観だけど、壁にたくさんの穴が空いていて、そこから自然光が差し込んで、中に入ると点の光のグラデーションを感じることができます。自然との接点、外と中の中間地点を設計するのは、興味深いですね。そこに人の居心地のよさをうまく融合させる、ということをいつも考えています。
 出張が多いので、移動中の飛行機や新幹線で頭の中を整理することも多いです。周りに人がいても、一人の世界に入れる狭い空間はいいですよね。疲れたら、ぼんやり窓の外を眺めたり。でもやっぱり自分のペースを取り戻すには、事務所のデスクに座るのがいちばんです。本を読んだり、仕事を冷静に見直すことができるので。休日は自宅の近くにある緑道を散歩する時間を大切にしています。緑道は半公共的で家の持ち物のようにも見えるし、緑道自体が庭と公園の間という感じがして大好き。散歩中につい、建物の足元をチェックしちゃうこともありますけど(笑)。

岡野 道子

1979年埼玉県生まれ、東京都在住。建築家。株式会社岡野道子建築設計事務所代表。2017年より芝浦工業大学特任准教授。主な作品に、「熊本益城町テクノ仮設団地みんなの家」「檸檬ホテル」「甲佐町営甲佐地区災害公営住宅」「甲佐町子育て支援住宅」などがある。現在、「100本のスプーンあざみ野ガーデンズ・コドモたちとみんなでつくる公園プロジェクト」も進行中。

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