サステナビリティ
“もったいない食材”とスープは相性がよい?!
“もったいない食材”もその一つ。産地には、さまざまな理由で市場に出荷できない作物や規格外品として廃棄せざるを得ないものがあります。
スープという料理は、食材の形やサイズにこだわらず、調理の工夫次第で食材のおいしさを十分に引き出すことができます。スープストックトーキョーがこれまで開発してきたスープの中で、料理人のアイデアと調理における手間隙によって、“もったいない食材”だからこそ生まれたおいしいスープをご紹介します。
梨の食感とみずみずしさを楽しめる「梨のラッサム」
梨が店頭に並び始めると、少しずつ秋に向かい始める季節の移ろいを感じます。ある年の春、いちごを求めて千葉県に向かったバイヤーの松尾琴美は千葉の食材にまつわる色々なお話の中で、「千葉県は梨の一大産地でもあるが、市場流通させることが出来ずに破棄しているものがたくさんあって困っている」という話を耳にしました。「何か開発のヒントになるかもしれない――」という想いから、時期が来たらぜひ梨農家さんにお伺いさせて頂きたいとお願いし、その年の夏に千葉県市川市にある梨農家さんを訪れました。
現地にお伺いしそこで初めて知ったのが、千葉県市川市内で生産される約5,000tの梨のうち、約1割が規格外品として市場には出回らず、破棄されているということ。
▲やや赤みが強く変色してしまったり、皮に傷がついている規格外品の梨たち
しかし、そんな規格外品の梨を食べてみると味への影響はほぼなく、中身はおいしい梨そのもの。この立派な梨を廃棄するのはもったいないという想いから、スープやカレーに使えないかと料理人と試行錯誤し、「梨のラッサム」は生まれました。
「無花果チャツネのキーマカレー」のように、果物はチャツネにしてカレーに使うこともありますが、梨は水分が多くそのみずみずしさを楽しんでいただきたいという想いから、梨はシンプルに生のままカットし、酸味と辛味が特徴のトマトスープ「ラッサム」の具材として合わせました。スパイスの香りと酸味、辛味の中に、梨の甘みとみずみずしい食感をお楽しみいただけるスープです。
スーパーなどで見かける梨から、スープに使おうという発想はなかなか生まれなかったかもしれませんが、”もったいない食材”としての梨との出会いがあったからこそ「梨のラッサム」は生まれたと思うと、”もったいない食材”には新たなクリエイションのヒントが詰まっているのかもしれません。
しいたけの軸を使った「宮崎県諸塚村しいたけと豆乳のポタージュ」
「宮崎県諸塚村しいたけと豆乳のポタージュ」のだしには、宮崎県諸塚村の乾しいたけの傘と軸を使用しています。
▶︎ 「宮崎県諸塚村しいたけと豆乳のポタージュ」のストーリー記事はこちら
宮崎県諸塚村とスープストックトーキョーとの出会いは、アトレ四谷店の壁やテーブルに諸塚村のどんぐり材を使用させていただいたことがきっかけです。
料理人やバイヤー、店舗スタッフなど含めて何度も足を運ばせていただいている諸塚村ですがある時、しいたけの選別場へ向かった料理人は、乾しいたけの傘から軸をとる作業をしている姿を見て「その軸はどうしているんですか?」とスタッフの方に聞きました。
すると、「なかなか使い道はないのだけど、捨てるのはもったいないので取っておいている」とのこと。これは何かに使えるのではと考え、しいたけの軸からもだしをひいた風味豊かなスープを考案してたどり着いたのが「宮崎県諸塚村しいたけと豆乳のポタージュ」です。
具材にはなりづらいけれども、だしを抽出するにはとても適している乾しいたけの軸。豆乳で仕上げたポタージュに旨味とこれまでにない格別な風味を与えています。具材にも、同じく諸塚村産のしいたけときくらげを加えて、さらにがんもどき、春菊、柚子を添えた食べ応えのあるスープです。
オマール海老の頭がごちそうに「オマール海老のビスク」
Soup Stock Tokyoの看板商品である「オマール海老のビスク」も、実は“もったいない食材”を使っています。それは、オマール海老の頭。オマール海老の濃厚なだしには、カナダからはるばる送られてくるオマール海老の頭を使っています。
▶︎オマール海老のビスクに関するストーリー記事はこちら
メニューを開発した当時は、まだあまり使われていなかったこの頭の部分だけを使って、だしをとります。そのため、オマール海老の身と頭を一つ一つ手作業で解体する際に、私たちのオマール海老のビスクに使用するものだけは味噌が多く残るように特別に依頼して、丁寧に作業をしていただいています。
こうしてできたオマール海老の頭をじっくりソテーし、トマトや香味野菜を加えてさらに煮込み、ぎゅっと絞り丁寧に濾した一滴一滴が、深みのあるビスクのだしになります。
オマール海老はとても貴重な食材です。オマール海老を獲れる分だけ獲りつくしてしまえば、すぐに枯渇してしまうので、カナダの漁師たちは小さいサイズのものや、お腹に卵を抱えた雌は海に返し、次の季節にも元気なオマール海老がたくさん獲れるように、ルールを守りながら大変な仕事をもくもくとこなしています。そんな漁師たちの努力があってこそ、私たちSoup Stock Tokyoは毎年「オマール海老のビスク」を皆さまにお届けすることができます。ぜひカナダの海の恵みに想いを馳せながら、「オマール海老のビスク」を召し上がってみてください。
今回ご紹介したスープのように“もったいない食材”を起点に生まれるスープもあれば、新たなスープが生まれるときの発想の起点はさまざまです。それでも私たちがいつも大事にしていることは、おいしい料理をお届けすること。そのために、おいしい食材を求めて東奔西走する中で、さまざまな産地で出会う生産者の方々とお話し、ものづくりへの想いに触れ、ときには産地が抱える課題などを共有していただくこともあります。“もったいない食材”もその一つ。食に携わるブランドとして、私たちにできることはなにか―。限りある資源を大事にしながら、極力余すことなく食材を使いおいしくいただくことが、“未来のおいしい”に繋がる一歩になると私たちは考えています。