サステナビリティ

おいしいものを届けたい。未来のおいしいのためにできること。

日々、おいしいものを求めて全国各地の産地に足を運び、生産者と出会い、時には一緒に野菜の収穫をし、漁港に魚があがると聞けばその日のうちに漁港に行く。とても軽やかに、そして楽しそうに飛び回っては、何かしら気になる食材をもってテストキッチンへ登場する、Soup Stock Tokyoの旅するバイヤー松尾琴美。特に9月~10月ごろにかけては、さまざまな食材が全国各地で収穫期を迎えるため、彼女の姿をオフィスで見ることはほとんどありません。

商品開発の中でも、「調達」を担当する彼女は、新商品で使う新たな食材探しはもちろん、既存メニューを継続的に販売し続けるために、安定的においしい食材を調達する役割も担っています。食材の調達を一手に担う彼女に、Soup Stock Tokyoのものづくりのこだわりや、産地の方と一番近くで対話し、誰よりも足を運んでいるからこそ見据える食との向き合い方について、話を聞きました。

とにかくおいしいものを届けたい、その一心です


―バイヤーの仕事をするうえで、大事にしていることはなんですか?

松尾:「お客さまにおいしいものを届けたい」その想いがすべての起点となっています。バイヤーという仕事柄、全国各地の産地を訪れ、たくさんのおいしいものに出会います。そして、それらを生産する様々な生産者の方とお会いし、ものづくりに対する想いに触れる一方、私たちのスープづくりに対する想いも必ず生産者の方々と共有するようにしています。“お互いの想いを知ることで共感し、チームとなって1つの商品を一緒に作り上げていくこと”、それをいつも大切にしながら商品づくりに取り組んでいます。

生産者の方々とお話をしていると、それぞれが抱える課題や問題を耳にすることが多々あります。そしてそれらがネックとなり、商品開発が難航してしまうことも少なくありません。しかしそんな時は、生産者の方々が持つ課題を自分たちの課題でもあるととらえ、私たちが何をすればその問題が解決できるか、常に一緒になって考え行動することを大切にしています。
当たり前のような小さな行動の1つ1つですが、この小さな積み重ねが5年後、10年後も皆さまにおいしいをお届けすることに繋がると考えています。

“おいしい”の持続可能性を目指し、課題と向き合い、解決の糸口を探る


―具体的には、どういった課題に対して、どのような取り組みを行っているのですか?

松尾:例えば、十勝でのかぼちゃづくりの取り組みです。きっかけは北海道のかぼちゃが大不作になった年に私たちが仕入れたかった量のかぼちゃを仕入れることができず、北海道産かぼちゃのスープの製造販売を制限せざるを得なかったことでした。
Soup Stock Tokyoの「北海道産かぼちゃのスープ」は、お子様から大人まで人気の高い定番のスープの一つです。数年前から北海道のかぼちゃの生産量が急激に減ってきているという話は耳にしていましたが、その年の状況を目の当たりにし、「このままだと10年後には北海道産かぼちゃのスープを思うように販売できなくなるかもしれない」と強い危機感を覚えました。

そこで、いつもお世話になっている十勝の生産者・和田さんに相談をしたところ、かぼちゃの収穫は機械化できず1つ1つ手で収穫する必要があるため重労働で、高齢の農家さんが作るのをやめていっているとのこと。また、重労働の割には単価が低く、かぼちゃの収穫時期は他の作物の繁忙期にも重なるため、新規で作ろうという生産者もほとんどいないとのことでした。
和田さんのところも、“昔は作っていたがやめてしまった”という状況でしたが、10年後も変わらずこの「北海道産かぼちゃのスープ」をお客さまへお届けしたいという想いを伝え、和田さんの畑で私たちのかぼちゃを作っていただけないかと相談。収穫が大変ならば私たちスタッフも毎年必ずお手伝いさせていただきます!と約束させて頂き、和田さんとのかぼちゃの取り組みが始まりました。


―かぼちゃの他にも取り組んでいることはありますか?

松尾:近年ではさんまや桜海老といった海の資源の減少も大きな課題となっています
女川産さんまのつみれスープ」や「駿河湾産桜海老のクリームスープ」は、女川や駿河湾で獲れたさんまや桜海老をそれぞれ使用した、季節の訪れを感じるスープです。楽しみにしてくださるお客さまも多いのですが、資源の減少により、毎年同じように販売を続けることが難しくなってきました。
海の資源は農作物にも増して自然環境の影響が大きいため、その年の漁期になると漁場の方と密に連絡を取り合いながら毎年の状況を伺っています。その上で、その年のスープの販売をすべきか否か、慎重な判断をしています。



桜海老の漁協では、2018年の歴史的不漁で120年の歴史で初めて休漁するという決断をされ、私たちも「駿河湾産桜海老のクリームスープ」の販売をお休みしました。苦渋の決断をされた桜海老漁協の方々の姿を見る中で、私たちは素材をお客様に届ける立場として、お休みとなった背景もきちんとお客さまに伝えご理解いただくことも大事なのではと思い、漁協の方への取材を行いました。

▶︎「駿河湾産桜海老のクリームスープ」のストーリー記事はこちら

今の当たり前がずっとこれからも続くとは限らないということを、産地の方と日々対話する中で感じているからこそ、そのような部分はお客さまとも共有し、ご理解いただきながら一緒に「未来のおいしい」のためにできることを進めていければと思っています。

―「未利用魚」を使ったスープについても教えてください。

松尾:「未利用魚(※)」というキーワード、まだご存じない方も多いかと思いますが、私自身も数年前に知りました。さんまや桜海老の不漁も目の当たりにしていて、この先おいしい海の資源を私たちは食べ続けられるのかなという想いもある中で、「未利用魚」というものと出会いました。
(※未利用魚とは、十分な水揚げ量がなかったり、規定サイズに満たないものや傷がついているなどの理由で廃棄されてしまう魚の総称です。)
五島列島を訪れ現地の方にお話しを聞いてみると、五島は以前、「魚の聖地」と呼ばれるほど日本でも有数の豊かな漁場だったとのこと。しかし、巻き網漁での大量捕獲や、特定の魚ばかり獲られ続けたことにより、海の環境が変わり、だんだんと魚が獲れなくなってきたそうです。また“磯焼け”と呼ばれる現象も深刻になっています。そんな状況を身近に感じながら、五島では 漁業に関わる方々を中心に未利用魚を活用した商品開発が積極的に進められています。

“豊かな海を取り戻したい”と奮闘される五島の皆さまの想いと取り組みを知る中で、Soup Stock Tokyoでも何かこの取り組みに携わり、スープを通じて「未利用魚」という言葉を少しでもみなさまに知って頂くことはできないか、と思うようになりました。
ところが、未利用魚の中には海中の藻を食べて育つものもあるため独特の磯臭さがあり、通常のつみれでは食べにくさが残ってしまいます。そこで、常に一緒に商品開発を行うSoup Stock Tokyoの料理人に相談をし、レシピを工夫することで未利用魚を使った「長崎県五島産すり身団子のスープカレー」をつくり販売しました。こちらのスープでは、五島の未利用魚を活用して作られた魚醤もスープの隠し味として使用しています。

私たちがご提供する一杯のスープを通じて、「おいしい」の裏側にある食材や産地のこと、そういったさまざまなストーリーについて知る機会となれば嬉しいです。そしてそれが10年後の美味しいを紡ぐ1つのアクションに少しでも繋がることを願っています。

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異常気象や気候変動などさまざまな環境問題が取り沙汰される中、食に携わるブランドとして、私たちにできることはなにか―。
限りある資源を大事にしながら、極力余すことなく食材を使いおいしくいただくことが、“未来のおいしい”に繋がる一歩になると私たちは考えています。
顔の見える全国各地の産地の皆さまと一緒に、チームとなって一つ一つの課題と向き合い、おいしい解決策を見出しながら、Soup Stock Tokyoらしく表現していければと思います。

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