2016/1/30(Sat)@東京・中目黒

Soup Stock Tokyo × 落語 の、おいしい噺

日本の伝統芸能のひとつ、落語。
落語の醍醐味は、日々の暮らしや娯楽などの日常を題材にしていることにもあるでしょう。「時そば」や「饅頭こわい」など、食がキーワードとなっている演目も数多く語られてきました。
落語を通して日本の食や文化、江戸時代の庶民の暮らしに触れながら、昔も今も変わらない「おいしいって何だろう?」を考える、そんなイベントを開催しました。

落語家・柳家花緑さんによるおいしい噺をご披露していただいたのち、花緑さんとスマイルズ代表遠山正道によるトークイベントを開催しましたので、当日の写真とともにレポートをお送りいたします。

第一部:落語家・柳家花緑さんによる演目(二席)

会場は株式会社スープストックトーキョー本社。
突如出現させた高座には、ネクタイブランドgiraffe特製オリジナル座布団と屏風代わりに名和晃平さんのアート作品を壁にかけて。

そんな空間で、花緑さんの噺ははじまりました。

もともとgiraffeのファンでいらしたという花緑さん。冒頭この座布団についてご紹介くださいました。

今回ご披露いただいた演目は、食にまつわる「初天神」と「時そば」。

「初天神」で描かれるのは、天神様の初参りに出かける父子の情景。境内に並ぶ屋台であれこれねだる息子と、防戦一方の父親の臨場感あるやりとりが見どころのお噺です。屋台で買う飴玉やみたらし団子を食べる仕草、表現はもちろん、子どもの子どもらしい表情や心情が目に浮かぶその演技は、誰もが前のめりになり見入ってしまうほど。

二席目は一般的にも有名な古典落語「時そば」。こちらは蕎麦の屋台で起こる滑稽なお噺です。
主人公が表現する蕎麦屋の割り箸から器の質感、汁の出汁の香りさえ漂ってくるような見事な仕草や表情は、まさに目の前にそのあたたかいお蕎麦があるようでお腹が空いてくるのと同時に、お蕎麦をすするその仕草で、決定的に「おいしさ」が伝わってきます。花緑さんの演技を見ていると、こちら側が五感でおいしさを楽しんでいるような感覚です。
そこに、今も昔も変わらない「おいしいって何?」ということのヒントがあるような気がしました。

第二部:柳家花緑さんと遠山正道によるトークセッション

1時間ほどの落語が終わり、ジャケットにパンツスタイル(ネクタイはgiraffe)に着替えてこられた柳家花緑さんとスマイルズ代表遠山正道によるトークセッション。

笑わせたい気持ちを表に出さない

―遠山

落語家のみなさんは、第一声って考えておくものなんですか?

―花緑さん

芸人さんは、“ツカミ”が大事と言いますが、落語は“ツカマナイ”んです。お客さんがのけぞっているところを、演者の技量で前のめりにさせる、それが落語なんです。なので、もちろん笑わせたい気持ちはありますが、それは奥の奥に持っているもので、決して表には出しません。
演出家としての根っこの部分(どこで笑わせたいかなど)、技術、演じている姿、この3つの要素があった時に、お客さまには演者として演じている姿の部分が見えているわけで、奥底にあると演出家としての目は見せずにいかに笑ってもらい楽しんでもらうか、が大事になってきます。

落語の世界では、プロが客席で鑑賞するのはご法度

―花緑さん

客席にプロが座ってはいけないというのが、落語のルールなんです。
舞台とは違って、客席を明るくしてお客様の表情を見ながら演じるのが落語。なので、他の落語家が客席にいるとやりづらくなってしまうので、もし師匠や先輩の落語を勉強のために観せてもらいたい場合には、楽屋に挨拶にいって袖から観せてもらうんです。

―遠山

今は録音や録画などあると思いますが、昔はどうやって技術を盗んでいたんですか?

―花緑さん

それが寄席という場だったんですね。寄席は団体芸なので、1時間に4人(一人15分ずつ)演者がでてきて3~4時間やっている、そして最後の人が30分くらい噺をするので、そういうところで勉強していたんです。当然そういうときも袖から。

―遠山

でも横からだけではわかりにくいですよね?

―花緑さん

はい、寄席や高座を袖から観させてもらい、そのネタをお稽古してもらえることになって初めて対面で見ることができるんです。そこで発見や気づきなどがあるんです。

落語は銭湯

―花緑さん

落語界には人間国宝がいなかったんですよ。歌舞伎や他の伝統芸能にはいましたが。
私の祖父(柳家小さん師匠)が初めて落語家として人間国宝に選ばれたんです。

―遠山

落語は、歌舞伎や能に比べて後塵を拝してくやしい思いをしていたんですか?

―花緑さん

伝統芸能として認められるのが遅かったんです。いわゆる昔のお笑いなので、ちゃんとした芸として認められるまでに大変時間がかかった。その昔、落語家は税金を取られなかったそうなんですが、それはどういうことかというと、商売として国が認めていなかったんです。先輩たちが「税金を取ってくれ!」という運動を起こしたそうなんです(笑)。それで国にも認められて税金を払うようになったそうなんです。

そしてうちの祖父やその前の世代の人たちの時代に、その当時の落語ファンである演劇評論家のような方々が、「古典落語は立派なものです」という風に歌舞伎と同じ位置まで落語の地位を上げたんです。そして今、その煽りがわれわれの首を絞めているんですね(笑)「敷居が高い、行きにくい」みたいなことを言われるようになった。

「千両役者」という言葉がありますが、歌舞伎は昔から入場料も高かったし、お金も稼いでいました。
一方で当時の落語の寄席は銭湯と同じ値段と言われてるほど安価でした。落語って庶民の芸と言われるんですが、本来は敷居がない、バリアフリーなものなんです。だから、僕も今日「時そば」では現代語をたくさん使いましたけど、わかりやすい言葉でしゃべるというのは邪道ではなく、お客様に寄っていくのが落語という芸なんです。ウケなければなんの存在意義もない。今日理解されなければ、明日理解されるように稽古する、という風にお客様に寄り添っていった芸なので、芸も変化していくし、飽きたら新しいものを作るということを繰り返してきた。だから古典落語は作品が多いんですね。

―遠山

話変わりますが、江戸時代って当然マイクはないじゃないですか。ということは、地声で聞こえる範囲でしかやっていなかったんですか?

―花緑さん

そうですね。寄席に近いスタイルですよね。蕎麦屋の2Fみたいなところが多かったそうで、東京に100軒くらいあったそうです。今では1000人規模のホールなんかでやらせていただくこともありますが、やはり臨場感という意味では、今日みたいな規模感の方が本来の落語には近いでしょうね。演者の息遣いや表情まで見てお客様がクスって笑ってくれるような。

―遠山

なるほど。しかし、食べる描写はすごかったです。お蕎麦なんて、本当に熱くて汗が出てきそうな感じでした。今、経産省などが取り組んでいるクールジャパンなどもあるので、落語もさらに飛躍していってほしいですよね。

本日はどうもありがとうございました!

<おまけの噺>
花緑さんがめくりの寄席文字について教えてくれました。
「これは、寄席文字といって江戸時代から使われている落語だけの文字。特長としては丸みがあってやわらかい文字というのと、客席に見立てているんですよ。白い部分の余白(空席)をなくそうというのは縁起担ぎで、なるべく黒い文字(お客様)で埋まるようにということでこういう書き方なんです。

第三部:おいしい時間 (立食懇親会)

「落語と食のじかん」にちなんだ軽食と日本酒をお愉しみいただきながら、花緑さんや参加者同士のみなさんとの交流を楽しんでいただきました。

今回のメニューは江戸の食文化からヒントを得て以下の内容にしました。
・葱とつみれの鍋
・いなり寿司
・日本酒(八海山:冷酒・お燗・甘酒)
・まんじゅう

Soup Stock Tokyoオリジナル屋台も登場!

八海山さんにご協力いただき、日本酒の冷酒、お燗、甘酒をご用意いただきました。

落語という日本の伝統芸能を通して、江戸時代の文化は庶民の暮らしに思いを巡らせることができた今回の「おいしい教室」。食にまつわるお噺と、落語を掘り下げるトークセッション、そして江戸時代の食文化、暮らしから想像を巡らせて表現した料理たちを通じて、花緑さんをはじめ参加してくださったみなさまと一緒に今も昔も変わらない「おいしいって何?」ということを楽しく考える時間になったのではないかと思います。

次回のおいしい教室も、どうぞお楽しみに。

photo by YUKIKO TANAKA


  • facebook
  • twitter
  • instagram
  • mailmagazine

ワークショップのようすや、最新ワークショップ情報をイチ早くお届けします。