2021年10月、Soup Stock Tokyo外食店舗にて未利用魚を使った新商品「長崎県五島産すり身団子のスープカレー」が登場しました。“おいしい料理を食べることが未来のおいしいにつながる”、そんな取り組みができればという想いから、このスープは生まれました。
スープの具材として私たちが使わせていただいたのは、長崎県の五島列島で獲れる未利用魚。“人も海も豊かに”をミッションに掲げ、五島にて様々な取り組みを行っている漁業関係者の皆さまの想いを知る中で、Soup Stock Tokyoでも何かこの取り組みに携わり、スープを通じて「未利用魚」のことや海の資源がおかれている状況について、少しでも皆さまにお伝えできればと思いました。



長崎県の西側に浮かぶ大小140余りの島々からなり、美しい海と豊かな自然に恵まれる五島列島。「魚の聖地」と呼ばれるほど日本でも有数の漁場で、かつては秋田から漁船が来るほどだったそう。しかし、巻き網漁での大量捕獲や、特定の魚ばかり獲られ続けたことにより、海の環境が変わり、だんだんと魚が獲れなくなってきたそうです。また“磯焼け”と呼ばれる現象も深刻になっており、その原因の一つは未利用魚により海藻が食べられてしまうこと。以前は採れていたわかめが採れなくなったり、ひじきが短くなったりという状況を目の当たりにしてきた漁業関係者を中心に、五島では未利用魚を活用した商品開発が積極的に進められています。


「未利用魚」という言葉を初めて耳にする方も多いかと思います。未利用魚とは、十分な水揚げ量がなかったり、規定サイズに満たないなどの理由から流通にのらない魚や、そもそも食用として価値を見出されず、海から積極的に獲られていない魚の総称です。私たちは、近年さんまや桜海老の不漁を目の当たりにし、この先おいしい海の資源を食べ続けられるのか、お客さまへ届け続けることができるのかという想いがある中で、「未利用魚」と出会いました。


五島を訪れた際に伺った金沢鮮魚 代表の金澤竜司さんのお話はとても印象的でした。
「生態系のバランスがとれた海に戻すためには、まだまだたくさんの未利用魚が有効活用されていかなければなりません。そのために、未利用魚を使った『五島の醤(ひしお)』に続く商品を開発中です。豊かな海を取り戻すために、今できることを一つひとつやっていますが、一度失ったものは元には戻らないかもしれません。でも、今努力をしなければ、10年後も何も変わらないと思うんです。」そう話す金澤さん。「金澤仕立て」という独自の手法により、鮮魚を長期保存させることでフードロスを減らしたり、発泡スチロールの使用を廃止することでプラスチックごみを減らすなど、人も海も豊かになれる方法を模索しながら、実践されている金沢鮮魚さんの想いに強く共感しました。


今回の新商品には、5年の研究を経て開発された未利用魚を活用して作られた魚醤「五島の醤」もスープの隠し味として使用しています。
こちらの魚醤、味がおいしいのはもちろんのこと、魚醤製造で出た絞りかすはエサ代高騰に苦しむすっぽん養殖業者や農家に提供し、一切無駄な廃棄を出さない循環型調味料なのです。
「消費者は新しい食体験ができ、漁師は対象魚で収入を得られ、海藻が生える土壌を作り、廃棄も出ない。必要とされるほど、海の環境が良くなる、私たちが目指す『人も海も喜ぶ』一つの形です。」そんな想いを語ってくださる金澤さんの眼差しは、常に未来へと向いていました。


左)「長崎県五島産すり身団子のスープカレー」に使用するすり身を作っていただく浜口水産 濱口貴幸さん

スープに未利用魚を使うと言っても、実は簡単なことではありません。未利用魚の中には磯の海藻を食べてそれが魚の胃の中で発酵し独特の臭いがあるものもあり、適切に調理をしないと食べにくさを感じてしまうこともあります。そこで、Soup Stock Tokyoの料理人が試行錯誤を重ねて誕生したのが、新商品「長崎県五島産すり身団子のスープカレー」です。店舗にてすり身を団子にし調理することで、素材となるニザダイ(未利用魚の一つ)や飛び魚のだしがスープに染み出し、旨味となります。さらにスパイスが魚の旨味を引き立て、あっさりしながらもコクのある味わいです。未利用魚を使ったすり身を作っていただく浜口水産さんにも何度も相談しながらレシピを完成させました。

Soup Stock Tokyoとして私たちにできることは何か。これまでなかなか価値を見出されずに廃棄されてきた「未利用魚」の中には、調理の工夫でおいしく食べることができるものもあります。さんまや桜海老の不漁の状況を目の当たりにし残念に思うだけではなく、違うところに目を向けたり視点を変えることで、今回の未利用魚の活用のように新たな食材としての可能性を見出すことにつながるのではと思っています。
このスープをきっかけに、「未利用魚」や海の資源について、少しでも関心を持っていただけたら嬉しく思います。