特に9月~10月ごろにかけては、さまざまな食材が全国各地で収穫期を迎えるため、彼女の姿をオフィスで見ることはほとんどありません。
商品開発の中でも、「調達」を担当する彼女は、新商品で使う新たな食材探しはもちろん、既存メニューを継続的に販売し続けるために、安定的においしい食材を調達する役割も担っています。食材の調達を一手に担う彼女に、Soup Stock Tokyoのものづくりのこだわりや、産地の方と一番近くで対話し、誰よりも足を運んでいるからこそ見据える食との向き合い方について、話を聞きました。
―バイヤーの仕事をするうえで、大事にしていることはなんですか?
生産者の方々とお話をしていると、それぞれが抱える課題や問題を耳にすることが多々あります。そしてそれらがネックとなり、商品開発が難航してしまうことも少なくありません。しかしそんな時は、生産者の方々が持つ課題を自分たちの課題でもあるととらえ、私たちが何をすればその問題が解決できるか、常に一緒になって考え行動することを大切にしています。
当たり前のような小さな行動の1つ1つですが、この小さな積み重ねが5年後、10年後も皆さまにおいしいをお届けすることに繋がると考えています。
―具体的には、どういった課題に対して、どのような取り組みを行っているのですか?
Soup Stock Tokyoの「北海道産かぼちゃのスープ」は、お子様から大人まで人気の高い定番のスープの一つです。数年前から北海道のかぼちゃの生産量が急激に減ってきているという話は耳にしていましたが、その年の状況を目の当たりにし、「このままだと10年後には北海道産かぼちゃのスープを思うように販売できなくなるかもしれない」と強い危機感を覚えました。
そこで、いつもお世話になっている十勝の生産者・和田さんに相談をしたところ、かぼちゃの収穫は機械化できず1つ1つ手で収穫する必要があるため重労働で、高齢の農家さんが作るのをやめていっているとのこと。また、重労働の割には単価が低く、かぼちゃの収穫時期は他の作物の繁忙期にも重なるため、新規で作ろうという生産者もほとんどいないとのことでした。
和田さんのところも、“昔は作っていたがやめてしまった”という状況でしたが、10年後も変わらずこの「北海道産かぼちゃのスープ」をお客さまへお届けしたいという想いを伝え、和田さんの畑で私たちのかぼちゃを作っていただけないかと相談。収穫が大変ならば私たちスタッフも毎年必ずお手伝いさせていただきます!と約束させて頂き、和田さんとのかぼちゃの取り組みが始まりました。
―かぼちゃの他にも取り組んでいることはありますか?
「女川産さんまのつみれスープ」や「駿河湾産桜海老のクリームスープ」は、女川や駿河湾で獲れたさんまや桜海老をそれぞれ使用した、季節の訪れを感じるスープです。楽しみにしてくださるお客さまも多いのですが、資源の減少により、毎年同じように販売を続けることが難しくなってきました。
海の資源は農作物にも増して自然環境の影響が大きいため、その年の漁期になると漁場の方と密に連絡を取り合いながら毎年の状況を伺っています。その上で、その年のスープの販売をすべきか否か、慎重な判断をしています。
▶︎「駿河湾産桜海老のクリームスープ」のストーリー記事はこちら
今の当たり前がずっとこれからも続くとは限らないということを、産地の方と日々対話する中で感じているからこそ、そのような部分はお客さまとも共有し、ご理解いただきながら一緒に「未来のおいしい」のためにできることを進めていければと思っています。
―今年の秋、「未利用魚」を使ったスープも登場しますね。
(※未利用魚とは、十分な水揚げ量がなかったり、規定サイズに満たないものや傷がついているなどの理由で廃棄されてしまう魚の総称です。)
五島列島を訪れ現地の方にお話しを聞いてみると、五島は以前、「魚の聖地」と呼ばれるほど日本でも有数の豊かな漁場だったとのこと。しかし、巻き網漁での大量捕獲や、特定の魚ばかり獲られ続けたことにより、海の環境が変わり、だんだんと魚が獲れなくなってきたそうです。また“磯焼け”と呼ばれる現象も深刻になっています。そんな状況を身近に感じながら、五島では 漁業に関わる方々を中心に未利用魚を活用した商品開発が積極的に進められています。
ところが、未利用魚の中には海中の藻を食べて育つものもあるため独特の磯臭さがあり、通常のつみれでは食べにくさが残ってしまいます。そこで、常に一緒に商品開発を行うSoup Stock Tokyoの料理人に相談をし、レシピを工夫することで今回の未利用魚を使った「長崎県五島産すり身団子のスープカレー」が誕生しました。こちらのスープでは、五島の未利用魚を活用して作られた魚醤もスープの隠し味として使用しています。
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異常気象や気候変動などさまざまな環境問題が取り沙汰される中、食に携わるブランドとして、私たちにできることはなにか―。
限りある資源を大事にしながら、極力余すことなく食材を使いおいしくいただくことが、“未来のおいしい”に繋がる一歩になると私たちは考えています。
顔の見える全国各地の産地の皆さまと一緒に、チームとなって一つ一つの課題と向き合い、おいしい解決策を見出しながら、Soup Stock Tokyoらしく表現していければと思います。