Soup Stock Tokyoに春を運ぶ「駿河湾産桜海老のクリームスープ」。ありがたいことに、春が近づくにつれて「今年はいつからですか?」とお問合せが増え、新しい季節を告げるスープとして毎年ご好評いただいています。

この春ふたたび登場するスープには、日本では駿河湾でのみ水揚げされる桜海老が使われています。海の宝石とも言われる桜海老は、とても貴重な食材です。というのも、2018年に歴史上初となる休漁の判断がくだされてから、桜海老の資源保護活動が続けられています。

Soup Stock Tokyoではスープの販売をお休みした2018年から、桜海老のふるさと・静岡県由比、蒲原の方々と一緒に、資源保護活動の背景にある想いをお届けしてきました。今回は桜海老漁業組合の方々のたゆまぬ努力がつないだ、5年目の希望をお伝えさせてください。

※「産地だより 桜海老を守る人たち」の過去の記事はこちらよりご覧ください。
産地だより 桜海老を守る人たち(2019)
産地だより 続・桜海老を守る人たち(2020)
産地だより 3年目-桜海老を守る人(2021)
産地だより 4年目-希望の兆し(2022)


「お客様が楽しみにしてくださって、とても嬉しいです」そう語るのは、桜海老漁業協同組合の實石さん(右)と桜海老加工屋の柴田さん(左)。(2023/2/7取材)

ー-2022年の秋漁は自主規制を開始してから、秋漁では最多の約182トンの漁獲量と伺いました。振り返ってみていかがでしたか?

實石さん:去年の秋は風強くて波も高く、漁に出れない日もありました。桜海老は2隻の船を沖で並べて捕るため、波や風が強いと危険なんです。そんな中、けがもなく無事に漁を終えられたことに感謝しています。本当によく頑張ってもらったなと思います。

ーー秋漁のところがまた少し増えていますね。

實石:秋漁では小型のえびが多かったんですよ。一見すると、良くないニュースに聞こえますが、私たちは産卵や孵化率が良くなり、世代交代がうまくいったのだと考えています。実食してみて、びっくりするほどおいしかったので安心しています。海に出ている乗組員の肌感覚としては良い方に向かっていますね。

ーー小さい桜海老が多く捕れることは、希望とも言えるのですね。

實石:そうですね。産卵のピークは水温の影響を受けますから、自然の恩恵も大きくありました。海の中で桜海老が育っていても、漁に適した天候であることも重要です。単に漁獲量だけでその年の良し悪しは判断はできません。

ーー桜海老の資源保護とは、具体的にどのような取り組みがありますか?

實石:ここ数年は自主規制というかたちで、なるべく捕らずに資源回復を待つもどかしい日々が続きました。今もずっと自主規制の中で操業してるもんでね。漁獲努力量といって、毎日の漁獲量を確認しながら、操業している地域のみなさんと慎重に決めてしています。また、禁漁区としているエリアを緩和しながら、海の調査を続けています。

ーー前回のインタビューでも「捕りながら増やす」ことで、「希望の持てる操業」に取り組むとお話してくださいました。桜海老に関わる方々の変化はありましたか?

實石:昔に比べるとまだまだ漁獲量は少ないですが、去年の秋漁に希望の光が見えたから、それに賭けて桜海老漁を続けてくれてる乗組員もいます。乗組員だけでなく、買受人や加工業者のみなさんがこの春はすごく期待してくれてると感じます。本当は買い手としてはもっとたくさん捕ってきてほしいでしょうし、乗組員としても大漁で喜んでもらえるほうが良いはずです。それぞれの思いを抱えながら、みんなでぐっとこらえて資源を増やしているところです。

實石:桜海老はここ由比港をはじめ、駿河湾の大切な資源です。思い入れがあるからこそ、衝突がなかったわけではありません。それでも、昔と比べるとみなさんに理解を示してもらえることが増えて、認識が変わってきたなと実感します。いかに桜海老という資源を無駄なく活用して、「持続可能な漁業を目指すことが大切だ」と考えてくれています。

ーー桜海老に関わるみなさんの想いがあってこそ、今につながっているのですね。

實石:ここ最近は徐々に漁獲量を増やせていることもあって、乗組員もモチベーションを高く持って操業してくれています。海の中も、人の気持ちも、目には見えません。それでも彼らのやる気が削がれるような厳しい規制を敷くことは避けたいですね。

柴田:加工屋としては、ここ2年ほど漁師さんに頑張って調整しながら捕っていただいて。少しずつ増やしてもらってて、価格も落ち着いてきたのでようやく市況に案内できるようになりました。2023年の春は、Soup Stock Tokyoさんをはじめ、外食産業に一部取り扱ってもらえたのは嬉しい変化ですね。

實石:価格は間接的な資源保護につながります。ほどよく捕って、納得感のある価格で買っていただく。もちろん高ければいいと思っていません。桜海老に関わる人の生活がかかっていますから、価格は下がれば良いというものではありません。国産の桜海老はここ駿河湾だけで捕れるもの。120年以上続いた桜海老の産業自体がなくなっては元も子もありません。

ーー価格は間接的な資源保護になって、適正価格になることで、持続可能な漁業につながるんですね。Soup Stock Tokyoで食べる一杯のスープによって、生活者としてもその一環に参加できたら嬉しいです。

實石:コロナや不漁の影響で、市場規模が縮小してしまったという感覚はあります。価格が安定してきたら需要も戻ってくると思いますし、その時に駿河湾産の桜海老を食べたいと思ってもらえたら嬉しいですね。​​私たちも捕って終わりではなく、鮮度管理にもいっそう気をつけています。

ーー来年も漁獲量と価格が安定しそうであれば、ぜひSoup Stock Tokyoでもより多くのお客様に食べていただけたらと考えています。桜海老を使った新たな商品開発にも着手しているところです。

實石:嬉しいですね。自分で食べても、やっぱりおいしいなぁと思います。栄養もあって、いろいろな食材と組み合わせて、味、香りが引き立つ素晴らしい食材です。ぜひ新しい食材と組み合わせたスープや、さまざまな食べ方をご紹介いただけたら嬉しいです。

ーー漁師さんはどんな食べ方をされるのですか?

實石:茹でてポン酢をつけてシンプルに食べたり、釜揚げやサラダにしてもおいしいですね。静岡の有名なホテルではオムレツのソースにしたり、可能性があるもんだなと思います。

ーーおいしそうです!最後にSoup Stock Tokyoのお客様にメッセージをいただけたら嬉しいです。

實石:私は東京で生まれていろいろな経験をしてきましたが、漁業の中でも捕るものが桜海老でよかったなと思っているんですよ。桜海老は日本ではここ駿河湾でしか捕れない、貴重な海の幸。捨てるところはひとつもありません。本当にやりがいのある漁業だと感じます。だからこそ、おいしい海の幸を知ってもらい、楽しんでもらい、桜海老のふるさとを少しでも心に留めてもらえたら嬉しいです。

sakura

Soup Stock Tokyoのスープは多くの産地とのパートナーシップによって成り立っています。私たちも生活者として5年、10年先もおいしいものを食べ続けたいと願っています。Soup Stock Tokyoでは、適正な価格で買い支えていくこと、お客さまにそのおいしさをお届けし続けることをこれからも大事にしていきたいと考えています。受け取ったバトンを、私たちらしいかたちで渡して、つないでいけたらと思います。

漁師さんが操業して、加工屋さんに渡り、Soup Stock Tokyoで一杯のスープになって、お客様にバトンをつなぐ。スープの向こうに産地の景色が思いうかぶような、そして「いつか訪れてみたいな」と心にのこる一杯であれるよう、この春も心をこめてお作りしています。おいしいスープを通して、食材の産地や人に思いをはせる、あたたかな時間になれば嬉しいです。


sakura